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第97話
勢田の事務所を出た後、広瀬は東城に頼んで会社のオフィスまで行き、待っていてくれた飯星たちにカバンを渡した。
報告は明日、今日はとにかく帰って休んで、と言われ、家に帰ってきたのだった。
東城は、家に帰る道、ほとんど口を開かなかった。会社に行きたいという広瀬の頼みも、あっさりと聞いてくれた。
そして、家の車庫で車を降りた。そこで広瀬は足が動かなくなった。
地面にそのまま座ってしまいたくなる。
今日一日、色々ありすぎた。身体のあちこちが痛み、ふらついてどうにかなってしまいそうだ。
東城が、疲れ切った広瀬に手を伸ばし、立ち上がるのに手を貸した。
そして、歩いて家の玄関まで行くのを支えてくれた。二人で、ゆっくりと歩いた。
玄関を開けて中に入る。優しい灯りが室内を照らしている。朝と同じ家にやっと戻ってくることができた。
家に入って、灯りの下、東城は、広瀬から一歩離れる。彼はしげしげと自分を見た。
「お前、どこをどう転がりまわったんだよ」と彼は鼻に皺寄せて言った。「ひどいありさまだな」冗談めいた口調だ。「せっかくのシャツもスーツもドロドロだ。お前の会社の人たちも呆れてたろう」
先方は高田さん以外、お前の無鉄砲には免疫ないだろうしな。久しぶりにお前のひどい有様を見ると、なんだか懐かしくもあるよ、と彼は笑い交じりに言った。
そして、自分のスーツについた目には見えない埃を楽しげなしぐさで払っている。
皮肉なんだか、からかっているのか、わからない声だった。
広瀬が説明しようと口を開いたその時、東城はふいに広瀬を自分の胸の中に抱き込んだ。
「無事に戻ってこられてよかった」と東城は低い小さな声で言った。
彼の心音が聞こえる。
東城は、何度も何度も同じ言葉を呟いていた。
自分に言い聞かせているようだった。
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