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第98話

しばらくそうしていて、やっと東城は腕を解いた。 それから、大きな手で広瀬の両頬を包み、覗き込む。 「何か食べた方がいいって顔色だ。だけど、その前に身体をなんとかしよう」と言った。 口調は元に戻っている。広瀬を抱いて、自分の腕に中にいることを実感し、気を取り直せたようだ。 広瀬は身体を支えられながら浴室に連れていかれた。脱衣所であっという間に服を全部脱がされる。 浴室はあたたかい湿った空気に満ちていた。 東城は、素早いが優しい手で広瀬の身体に触れた。 身体のそこここに打撲と裂傷ができている。 負担をかけないようにボディーソープを泡立て、スポンジや手で首や肩、背中、足の指、爪先まで東城が洗っていく。髪もシャンプーされた。 その間、広瀬はなされるがままだった。丁度いい力加減で洗ってもらった。 髪からポタポタとお湯が落ちる。目を閉じると睫毛からしずくが頬に伝った。 そして、やっと洗い終わって、東城は、かがみこんでキスをしてきた。湿った唇が重なり、優しく口の中に舌が入ってくる。温かい柔らかな感触だ。 離れていく唇がなんてとも名残惜しい。 広瀬は、目を開ける。 東城が広瀬の額にかかる前髪を後ろに撫で上げた。

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