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第99話
大きなタオルで身体を包まれ、脱衣場の籐のスツールに座らされる。
東城は、家庭用にしては大きな救急箱を持ってきて、足元に置いた。
それから、広瀬の身体に薬を塗り、包帯を巻き、湿布を貼り、手当てしていった。
腹部の打ち身の変色した痕をみて東城は顔をしかめる。「蹴られたのか?」
広瀬はうなずいた。
「痛むか?検査した方がいいな。内臓に影響あるかもしれない」
「そこまでじゃないです」と広瀬は言った。「寸前で避けました」蹴られたのは一度だけだし。
東城が手のひらで蹴られた個所をなでる。心配そうに広瀬の顔をうかがっている。痛い時やまずそうな時にはちゃんとそういうのに、まるで信用がない視線だ。
腹部の痛みは身体の中までじゃない。表面の筋肉部分だけだ。
むしろ、こうやって触られると手のひらの温もりだけで、治っていくようだ。
「息苦しくはないか?」と東城は質問してくる。
広瀬は首を横に振った。
「吐き気や、頭痛は?」
それもない。殴られたり蹴られたりしたところに痛みは少しはあるものの、異常な痛みではない。
体調に問題があるとしたら、それはものすごく腹が減っているということだけだ。
「様子みることにするけど、何か少しでも異常があったら、すぐに言えよ。病院に連れて行くから」と東城は言った。
彼は手際よく手当てを終えた。
先ほど拘束されて微かに擦り傷ができた手首にまで薬を塗られ包帯を巻いている。大袈裟ではあるが、その方が東城の気がすむのだろう。
それに、こうして身体を洗い、椅子に座って手当てを受けていると、先ほどの疲労感がさらに何十倍にも増幅されてくる。広瀬は目を閉じた。力がでない。
この家の中は安全で、広瀬は守られている。そのことが身体の緊張を解き、全身を弛緩させていくのだ。
そして、このまま身体中からエネルギーがなくなって、椅子に座っていることもできなくなりそうだ。
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