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第100話

「着替えて、なにか食べよう。お前、ひどい顔色だ」と東城が言った。 東城に手伝ってもらい、なんとか部屋着に腕を通した。 ほとんど抱え込まれるようにして、広瀬はキッチンの椅子まで行った。 東城が、テーブルの上に大ぶりのスープ皿を置き、柔らかい野菜とチキンの入ったコンソメ味のスープを入れてくれた。 スプーンを渡されて、広瀬は口の中に入れる。 スープは、喉を通る前に、口の中の皮膚や舌にまずしみ込んでいった。せっせとスプーンを動かして、自分の中に補給していってやる。スープが喉の中に滑り込み、それからどこに行くのかわかるくらい、全身くまなくいきわたっていく。 スープ皿に口をつけてそのまま飲み込んでしまいたくなる。だけど、急ぐと身体に悪いのはわかっているので、我慢してスプーンを使い、できるだけゆっくりと少量ずつ口に入れた。 半分くらい食べるころには、だんだんに血の巡りがよくなり、身体が生き返りだした。 疲れは重いが、ましになってくる。 東城はというと、広瀬の向かい側に座り、彼が食事をするのをじっと見ていた。広瀬の状態を観察しているのだ。 怪我の重さだけではない。自分に黙っていることはないのか、思いもよらない危険なことが起こっていないのか、探ろうとしている。 だが、質問はしてこなかった。今日のところは、広瀬には答える力もなさそうだからだろう。 そして、広瀬が食べ終えると、東城は錠剤と水の入ったグラスを差し出してきた。 「痛み止めだ。眠るのにも役立つ」 広瀬はおとなしく彼の指示に従った。薬を飲み、支えられて二階の寝室に行き、ベッドに横になった。 時計は見ないことにした。明日朝起きて、定時に会社に行くのだ。報告しなければならないし、後始末もする必要がある。 だけど、今日のところは、眠ることだけを考えた。 東城が夏掛けの布団を身体にかけてくれる。電気が消された。 ベッドには彼もいっしょに横たわる。 広瀬は手を伸ばし、彼の胸の上に置いた。 呼吸と脈拍が手に伝わってくる。 彼は自分の手を広瀬の手の上に重ねた。いつもと同じ、大きな温かい手だ。 広瀬は目を閉じた。すぐに深い眠りについた。今日一日のことが嘘のように部屋は静かで、邪悪なものは何もなかった。

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