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第101話

翌日、広瀬は定時に会社をでて、家に戻ってきた。今日はもう帰りなさい、と言われたのだ。 明らかに広瀬が疲れていたのに加え、東城が巻いた包帯が目立ちすぎたせいも多分にあるのだろう。 家に着くと広瀬は東城にメールで連絡をした。 かなり心配させてしまったので、当面は安心させないと悪い気がしたのだ。 それから、足首に手をやり、黒いバンドを外した。 それは、今朝、東城が持ってきて手ずから巻いたものだった。 「GPSと心拍計が入っている。お前がどこにいるのか、生きているのか、俺に伝わるようになってる」と東城は説明した。 当分、黙ってこれをつけていてくれと頼まれたのだ。 広瀬は、うなずくしかなかった。 バンドをはずすと、浴室に行って、身体を洗った。 昨日よりは身体の痛みはましにはなった。 だが、浴室の大きな鏡にうつる身体のそこここについた打ち身は黒ずんでいる。顔は青白く、目の下にはくまができている。見なければよかった。我ながら酷い顔だ。疲れた自分を見ると、ますます疲れてくる。 身体は動かした方が治りはいいはずだ。家の一階にあるトレーニングルームで身体を動かそう。でも、それは今日じゃない、明日だ、と自分に言った。 シャワーを使った後、身体を拭き、昨日から脱衣場に置かれている救急箱を開け、痣に湿布を貼り、傷口に絆創膏を貼り直した。 そして、脱衣場で身づくろいしていると、棚の銀のトレーの上に緑色のペンダントトップがあるのを見つけた。 東城がくれた孔雀石だ。 昨日、ポケットに入れていたままだったのを、石田さんが昼間に洗濯する時に取り出してくれたのだろう。 鎖は、勢田にちぎられている。 広瀬は、部屋着を着ると、そのペンダントトップを手にリビングに戻った。 孔雀石をローテーブルの上に置き、足首に巻いていたGPSの黒いバンドと並べて眺めた。 孔雀石のペンダントを取り上げて人差し指と親指でつまみ、灯りにかざしてみる。 東城は、この中にGPSを入れたのだろうか。 だから、勢田のところに助けに来られたのか。それとも、広瀬のスマホのGPSをたどったのか。それにしても、GPS情報だけではあのビルに勢田といたことはわからないだろうし、組対の課長に手回しするには時間が短すぎる。どんな仕掛けがあるのだろうか。 もし、この孔雀石に細工をしているとして、そんなことができそうなのは、広瀬が知る限り忍沼だけだ。 忍沼が、東城の依頼に応じて、広瀬に内緒でGPS付きのペンダントなんて作るんだろうか。まっさきに広瀬に言いつけに来そうな気もする。 でも、あの二人はあれでつるんでいることもしばしばだから、共謀していたと言われても、納得してしまう。どちらにしても、忍沼に質問してみてもよいだろう。 広瀬は、スマホを取り上げた。

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