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第102話
忍沼からは昨日連絡が入っている。送った家の周辺の監視カメラの映像データが解析できたらしい。話をしたい、とメッセージが入っている。
広瀬は、電話をかけた。
忍沼はすぐには電話に出なかった。だが、数回コールして切った数秒後には電話がかかってきた。
「あきちゃん、今どこ?大丈夫?」と開口一番に彼は言った。「昨日のメールに返信ないから心配したよ」
心配したと言うのは、やはり、孔雀石で広瀬の場所や危機を知っていたのだろうか。
だけど、この孔雀石で広瀬の位置がわかるなら、今も家にいるのはわかるのではないだろうか。
広瀬の目の前のローテーブルには孔雀石が置かれているのだ。
今どこ、という質問は、忍沼は孔雀石とは関係ないことを示しているのではないだろうか。
「家にいます」と広瀬は答えた。
「そう。よかった。東城さんは一緒?」
「いません」
忍沼はそれ以上は広瀬に確認してこなかった。
そして、監視カメラの映像の解析ができた、と言った。周辺を走る車や車の中の人物も何人かわかった。会って説明したい、と、この前会ったバーを指定してきた。
広瀬は、日にちを確定せず、早めに会う約束をした。明日以降の予定は今夜東城と話をした後で決めたかったのだ。当面はおとなしくしていたほうがいい、と思っている。
会話が終わりそうになり、電話が切れる前に広瀬は、忍沼に質問した。
「あの、忍沼さん」
「なに?どうしたの?」
「孔雀石のペンダントのこと、ご存知ですか?」
忍沼は一瞬黙った。
この沈黙は何を意味しているのだろうか。
「孔雀石ってなに?」と彼は聞き返してきた。
「俺にくれた」
「僕が?孔雀石?」聞き返す言葉は疑いに鋭くなっている。
「いえ」と広瀬は言った。
忍沼がくれたのではない。
「孔雀石なんてあげてないよ。あきちゃん、変なもの受け取っちゃだめだよ。僕からって言われたの?誰かが送ってきたの?」
「東城さんが」
「東城?」と忍沼が言う。「東城さんが、あきちゃんに孔雀石をくれたの?」声が大きめになっている。
「ええ、まあ」
広瀬は、逆に小さい声になる。
目の前に孔雀石があるのだ。
そして、リビングから離れてはいるが、バーカウンターには孔雀石の置物も。もし、この孔雀石に何か仕掛けがあるのだとしたら、ここで会話しないほうがいい気がしてきた。
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