104 / 130
第104話
人の気配がして、広瀬は目を覚ました。
緊張して頭を使っていると思っていたが、いつのまにかソファーでうとうとしてしまっていたようだ。
思いのほか早く帰ってきた東城が、こちらを見ていた。手に薄がけの布団を持っている。どうやら広瀬が寝ているのに気づいて、掛けようとしてくれていたようだ。
「起こしたか?」と東城は悪かったな、と言った。
広瀬は、背筋を伸ばした。
「いえ。寝るつもりはなかったから」
「疲れてるんだ。昨日はほとんど寝てないしな。夕飯は?」
「これからです」
「準備するから、もう少し、寝てろよ」と気遣いを見せる。
「大丈夫です」広瀬は立ち上がった。時計を見ると小一時間は寝ていた。目が覚めて先ほどの疲労感は減り、頭の中ははっきりしている。
夕食の支度は自分がするから、と東城に伝えた。そして、彼が風呂に入って着替えている間に、冷蔵庫の中から食材をいくつも取り出し、温めた。
昨日からずっとお腹がすいているのだ。昨日の夜は身体をいたわるのにスープだけだったし、今朝も昼もあまり時間がなくて十分に食べられなかった。
だから、今夜は自分が食べたいものを好きなだけ食べるつもりだった。
石田さんが作ってくれたこんな時のためのがっつり系の料理をダイニングテーブルに並べた。
厚く切った豚バラチャーシューに、タルタルソースをたっぷりかけたチキン南蛮、山盛りのスペアリブ。チーズマカロニグラタンをオーブンから取り出し、ゆで卵とベーコンの入ったポテトサラダをボウルによそった。味噌汁と大盛りの白飯も用意する。
風呂から上がってダイニングに来た東城が、テーブルいっぱいに並ぶ料理に片眉をあげている。
広瀬はもの言いたげな彼に知らん顔をして彼のグラスに冷えたビールをそそいだ。
そして手を合わせていただきます、と言うと、さっさと皿にチャーシューを何枚ものせ、口の中にいれた。
東城が、やや呆れた顔でビールを口にしながら、小さい声で「相撲部屋かプロレスの合宿所」とか何やら呟いているのが聞こえたが、それに親切に反論をするつもりはなかった。
広瀬がご飯をガツガツ食べている間、東城は、ゆっくり食事をしている。彼は、いつもカロリー計算して、食べ過ぎないようにしているのだ。
ともだちにシェアしよう!