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第105話

東城は、食事をしながら石田さんはプロ中のプロだな、と彼女の料理の味を誉め、その後、駅前にリニューアルオープンした商業ビルの話をしていた。 広瀬は食事をしながら彼のたわいのないの話を聞いた。 商業ビルには大きなカフェやプロテインの専門店が入っているらしい。カフェは本屋と花屋を併設していて緑にあふれる中で本とコーヒーを楽しむことができるらしい。 プロテイン専門店には、女性や高齢者も多くきていたそうだ。 本屋は広瀬が好きそうだから紹介しているのだろう。 プロテインは東城本人の趣味だ。タンパク質でもなんでも毎日の石田さんの料理からきちんととればいいんだけどな、と言いながらも、既に何種類か買った口ぶりだった。 食事をゆっくりととるために当たり障りのない話を彼は選んでしていた。 広瀬は甘辛ダレのスペアリブを左手に持って骨までしゃぶり、ポテトサラダのボウルをスプーンでかきとり、最後の一口まで食べ終える。 東城が、食後の温かいお茶をいれてきてくれた。 そしてようやく「それで、何がおきたんだ?」と彼が口を切った。 昨日からの一連の出来事の話だ。 東城の質問に答える形で、広瀬は、落とし物のビジネスバッグを見つけた話から、勢田のところに行くまでの話を手短にした。 勢田のところでの会話は必要最低限しか話さなかった。 勢田から性的な話をされたことを話したくなかったのだ。 自分が瀬田の欲望の対象になっていることはこれ以上考えたくもなかった。東城にも勢田のことを考えて欲しくなかった。 広瀬は、それから、今日の会社での話をした。 広瀬が郵送したUSBメモリが無事に事務所に届いたのは、昼過ぎだった。 その後だ。 「依頼主がカバンを受け取りに来ました」 感じの悪い男がやってきた。 彼は、カバンに穴が開いていることに対して、苦情を言ってきた。だが、対応した飯星たちはその話は軽く受け流した。 飯星は、そして、中身だけになったUSBメモリを差し出した。 「これが、カバンに入っていました」 男は変わり果てたUSBに怒りをにじませた。 だが、苦情を言いつられる前に、飯星が相手に伝えた。 「このUSBを手に入れたお勤め先の会社には、戻られない方がいいですよ」 飯星は、USBメモリが入っていた封筒に一緒にあったメモを男に見せた。 男はそのメモを見て渋面は崩さなかったが、明らかに顔色が変わった。 「この名前は、ご本名ですよね」と飯星はメモに書いていある名前を示した。「この名前が書いてあるということはあなたの身元を会社が把握しているということではないのでしょうか?」 男はそうだとも違うとも言わなかった。その後、ほとんど口をきかず、カバンとUSBメモリを持ち、オフィスからそそくさと立ち去って行った。

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