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第106話

「で、誰だったんだ、その男は?」と東城は問うた。 「厚労省の役人でした」 東城は手に持っていたお茶をゆっくりとテーブルに戻し、わずかに身を乗り出した。 「厚労?なんで、そんな男が、怪しげな会社の怪しげなカバンを追っているんだ?麻取か?覚せい剤がらみか?」 「詳しくはわかりません。薬物は薬物でも、偽薬の関係らしいです」 「偽薬?」 「はい。日本ではまだほとんどないんですが、海外だと偽薬の流通が大きな問題になっているらしいです。例えば、こんな小さな薬が何十万、何百万円します。偽物作って売ると儲かるそうです。日本の薬は、錠剤とか日本語で印字されていることが多いですし、パッケージも日本語なので、偽薬の参入のハードルが高いんです」 「その偽物の薬を厚生労働省が追っているのはわかるが、今回のカバンとUSBのデータが偽薬とどういう関係にあるんだ?」 「まだ、よくわかりません。ですが、USBメモリに、偽薬のリストと流通にかかわる業者名が入っていたんです」 USBメモリの中身が郵送で届いたら、飯星達はすぐに中のデータを見たのだ。 「顧客に断りなく?」と東城は確かめてくる。 広瀬はうなずいた。「白石社長の指示です」 東城は黙っている。何かを考えを巡らせているのだろう。 「封筒に入っていた人物名を確認したら、厚労省の役人の名前と一致しました。その人物の写真を探したら、依頼主の男と同一人物だったんです」と広瀬は説明を続けた。「飯星さんたちは、おそらく、この厚労の男は会社に潜入して捜査をしていたんじゃないかと考えています。その過程で、証拠となるデータが入ったカバンが落とし物になっていることを知って、俺の会社に探すよう依頼に来た」 「お前の会社は、その悪い会社と契約してるんだろ。それって、どうなんだ?お前の会社も問題大ありなんじゃないのか」と東城は言った。

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