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第107話

だが、広瀬が答えずにじっと東城を見ているその視線を見返し、しばらくして、口を開いた。 「まさか、お前の会社は、その偽薬を流通させている会社とわざと契約していたのか?厚労とは別に探っていたっていうのか?」 「わかりません」と広瀬は答えた。「推測でしかないです。飯星さんたちは、その会社が違法なことをしていることは、全く知らなかったようですし」 されに広瀬は続けた。 「USBメモリーには、そのリスト以外にも大きな容量のファイルがいくつも入っていました」 「どんな内容なんだ?」 「暗号化されていてまだわかりません」 「まだってことは、解析しようとしているのか?」 広瀬はうなずいた。 飯星たちは白石社長と連絡をとり、社長からUSBメモリーの中身のコピーをとるよう指示を受けたのだ。暗号化されたファイルは、提携先のIT会社に依頼し、内容を確認するよう手配された。 東城はその話に不満を隠さない。 「顧客の情報を勝手にみるのか?」 「正確に言うと、顧客の情報なのかどうかもわからないものです」 「いや、少なくとも白石の会社のものじゃないだろ」 それはそうだ。そこに反論の余地はない。 「白石も含めて、お前の会社の社員は全員元警察官だったな」 「そうです」 「白石は、まだ、警視庁とつながっているのか?」と東城は言った。「実は警視庁の意向をうけて怪しい会社を探っているのか?」 広瀬が答えを持ってはいないことは彼も知っている。 東城は、左手の人差し指を唇にあてた。今回の事態を考えているのだ。さらに、何を言葉に出すのかも計算している。たとえ広瀬が相手でも、彼は緻密に計算するときがある。

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