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第108話
「その厚労の男はどっちを探っていたんだろうな」と彼は言った。「偽薬なのか?それともまだ内容のわからない大容量ファイル?」
広瀬にはそれも答えられない。
「それに、勢田は、どっちを追ってたんだ」と東城はさらに言った。「偽薬か、そのファイルか」
彼は、眉間にしわを寄せている。
「あいつのところから出るときに、奴は深追いするなとかなんとか捨て台詞言ってたな。負け犬の遠吠えかと思ったが、本気だったのかもしれないな。USBメモリの中身がなにか知っていたんだ」
そう言った後、東城はしばらく黙っていた。
そして、「お前は、それでも、会社、続けるんだよな」と東城が言った。
「え?」広瀬は聞き返す。
「お前の会社、何か裏がある。怪しげな会社を顧客に持ち、犯罪がらみのデータが見つかってる。おまけに顧客に断りもなく勝手にデータを盗んで中身を見ようとしている。もう、警察でもないのに、だ。何を考えてるんだ。高田さんに限って、変な会社にお前を誘うことはないだろうけど、でも」
「辞めません」と広瀬は答えた。「辞める理由もないです」
「そうだよな」と東城はこれみよがしに大きくため息をついた。広瀬のその回答はわかっていたのだ。
「いつも通りの騒ぎ起こして馘になるまで続けるか。昨日のことも会社でなんて言われたか知らないけど、やっかいな奴雇ったって思われてるだろうし」となんだか失礼なことを、広瀬に聞こえるように呟いていた。
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