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第112話
東城の手の上にある孔雀石をみているうちに、ふと、疑問が頭に浮かんだ。
「俺が、孔雀石を外してどこかに置いてしまうってことがあったら、どうなってたんですか?」と広瀬は言った。
「どこかってどこに?」と東城は聞いた。
「それは、例えば、自分の部屋に置きっぱなしにするとか」
外した時点で、孔雀石は作動する。自分の家の中に置かれていることは東城にもわかる。
そしてその間に別な場所にいる広瀬が、勢田と接触していたとしたら、このアクセサリーは全く意味がない。お守りの意味を果たさない。
東城はわずかに首をかしげる。「俺に黙って外すってことか?」
広瀬はうなずいた。「そういう可能性もあるとは思わなかったんですか?」
はずしたら作動するアクセサリーを勝手に外しかねない広瀬に渡すなんて不確実性が高すぎる。
「お前が、俺に黙ってねえ」と彼は言った。深くは考えていないようだ。すぐに彼は口の端をあげて、笑顔をみせる。「お前はそんなことしないだろ。俺があげたものを、そんな風には扱わない」と彼は言った。「大事につけてくれるって知ってたから、渡したんだ。現に、そうだったろう」
憎らしいほどに自信のある声だった。
彼のその自信に全面的に同意はしたくなかったので、「そうですか」と広瀬はぼそぼそ声で返事をした。
でも、広瀬も東城の言葉を否定できなかった。
東城の言う通り自分は外さなかっただろう。自分の首にかけた彼の指先の熱を、感じていたいから。
そして、修理されて戻ってきたら再びつける。二度と誰かに外させるようなことはしない。この孔雀石が自分を束縛するものだとわかっていても、だ。
彼を心配させて、無茶をさせたくない。もしも、孔雀石が外れたら、東城は自分の身を顧みずに、広瀬を探すことがよくわかったから。
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