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第116話
以前忍沼から聞いた話によると、記憶の実験には、副作用があった。
規範意識の低下、万能感だ。
能力を拡大させる一方で、自分の力を過信し、危険を察知する力を減退させる。
子供だった被験者の多くは事故で亡くなった。
危ない場所を危ないと思えなくなったのだ。
自分なら大丈夫、自分なら許されると思い込んでしまう。水の事故や高所からの転落、交通事故。
規範意識の低下から暴力的になり、人生を狂わせた者もいる。
それは記憶の実験の副作用だったが、証明はできないままだ。
以前、実験のリーダーだった大学教授は因果関係は証明できないと広瀬に言い放った。
忍沼は粗い大垣の像を指さす。
「この男」
「だめです」と広瀬は忍沼が言葉を出す前に言った。
「だめって?」
「大垣さんに関わってはだめです。それに、まだ、どんな目的で大垣さんが俺のところに来たのかも何もわからない」
「それも調べてあげるよ」と忍沼は言った。「どうしたの。あきちゃんらしくもない。心配してるの?」
広瀬はうなずいた。心配するに決まっている。忍沼は何をするつもりだろうか。大垣は一筋縄ではいかない男だ。
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