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第118話

古いビルのせいかエレベータがなかなかこない。もどかしくなり、東城は、駆け足で階段を上った。5階にあるその店は東城の前の上司である福岡のなじみの店だった。東城も何度も来たことがある。 深夜に近いその時間には、口の堅いオーナー兼料理人と娘しかいない。東城が入り口に姿を見せると、すぐに奥の個室に案内された。 店を指定してきた福岡は、すでに個室に座り、瓶ビールを手酌で飲んでいた。テーブルには脂っこい多国籍料理が数皿並んでいる。 福岡は東城の元上司だ。警視庁に勤めだしてからすぐに彼の部下になり、それから仕事に関するあらゆることを教え込まれた。尊大、身勝手と陰口はたたかれているが、で、その大きな態度に見合う能力がある男だ。 今日も彼は偉そうな風情で椅子に座っていた。現れた東城をわかりやすい表情の丸い目でジロリと見上げた。 「遅くなりまして」と東城が遅れたことを詫びようとすると、福岡は頭を横に振った。 「急な呼び出しだったんだ。かまわない」 そして、東城に座るよう言った。 「ビールでいいな?」と福岡は確認とも言えないような口調で言って、個室のドアをわずかにあけ、「おーい、ビール」と店の娘に自宅にいる頑固おやじのようにを告げた。 すぐに瓶ビールが2本と東城のグラスが運ばれてくる。娘はいつも無愛想だ。テーブルに並べると個室を音もなく出て行った。 「元気そうだな」と福岡は、瓶をもってお酌をしようとする東城を静止し、逆に彼のグラスにビールを注ぎながら言った。「身体はもういいのか?」 「はい。大丈夫です」と東城は答えた。以前、東城が撃たれたことに、福岡はかなり責任を感じているのだと人づてに聞いている。 福岡は、皿の中から甘辛たれがからんだ豚肉を箸でつまみあげ、口に入れた。「忙しいのか?」 「それなりです」 「本庁ほどじゃないって感じだな」 「はい」

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