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第121話

福岡は一瞬口を引き結んだ。それから言った。「お前、俺のチームに戻ってこい」 東城は、答えに窮する。「福岡さん、そう言われましても」 「最近、お前を警視庁に戻す話がちらほらきている。ただし、元の部署への出戻りは室内の軋轢を生むからやめたほうがいいというのが上の考えだ。だが、お前が俺のチームに戻りたいといえば、その通りになる」 福岡は自信満々だ。 「そうなんですか?俺の希望が通るなんてことがあるとは思いませんが」 チームに戻る話は、今日福岡に呼び出されたときに少しは予測していた。もし、言われたら、どうしようかと、東城はこの店に来る間ずっと迷っていたのだ。今でも、福岡への返事をためらう。戻るか、戻らないか。決めかねている。 福岡は東城の質問にうなずく。「この前、俺は橋詰と話をした。お前さえ問題なければ、お前を戻すよう計らうってことだ。お前の希望を聞くというよりも、ある種の縄張り争いみたいなものだな。ぐずぐずしていると別な部署に行かされるから、早くに手をうつ必要がある」 東城が黙っているので、福岡は言った。 「『Nノート』を今頃になって探す連中が出てきた。広瀬彰也が突然発砲して行方不明になったのも、広瀬信隆が殺された事件が背景にある。お前だって関心があるだろう?俺のところに戻って、捜査したくはないか?」 福岡がまっすぐ自分を見ている。 広瀬の父親のノート。広瀬の父親の事件。 「もう一回『まさか』って言いますけど」と東城は言った。 「なんだ?」 「俺を戻すために田代警部補にわざとノートを盗ませたんじゃないですよね?」 「お前、バカだろ。俺がそんなまどろっこしいことするわけないだろうが」 「それは、そうですけど」と東城は答えた。福岡ならやりかねないと内心思った。自分の思い通りにするためには手段を選ばないのだ。しかも、その思い通りにしたいことが実に独りよがりでくだらないことということも多い。

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