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第126話

窓ガラスに、風呂から上がった東城の姿が映った。白いシャツを着てタオルを手に持ち濡れた頭を吹いている。 広瀬は振り向いた。 「ここにいたのか」と彼は言った。 少しかがみこんで、キスをされる。 湿った温かい感触。触れた唇から皮膚よりも高い体温が流れ込んでくる。何度も食まれながら侵入してきたが、身体が熱くなる直前で東城はキスをやめた。 そして、かすかに息が上がった広瀬を笑みを浮かべてみている。穏やかだ。 「バーボンの味がする。俺も、何か飲もうかな」と彼は言った。 それを聞いて、広瀬はバーカウンターに急いで行った。疲れている彼のためにならなんでもしてやりたくなったのだ。 「同じものを」と東城が言うので、ロックグラスに大きな氷をいれ、瓶からウイスキーをそそいだ。ついでに自分のグラスにも継ぎ足す。 そして、リビングのソファーに座る彼に差し出した。 「食事は?」 「済ませた。だけど、そうだな、少しなにかつまもうかな」 東城が自分で動こうとするのを、また、制し、広瀬は、キッチンに行き、皿を取り出し、こんな時のためにと石井さんが作ってくれていた野菜や小魚のピリ辛総菜やかわきものをガラスの皿に盛りつけ、リビングに運んだ。 東城は礼を言うとグラスに口をつける。 広瀬は、彼の隣に座った。 「そういえば、お前、今日、忍沼に会ったんだったな。どうだった?」と彼から聞いてきた。 広瀬が話すタイミングを計れなくなっていた話題だ。ちゃんと覚えていて質問してくれた。 広瀬は、水族館での忍沼との会話をできるだけ正しく伝えた。 「大垣が、実験の関係者だったのか」東城はグラスを動かすと、氷がくるりと回った。 「大垣の勤め先の団体、確か、環境系のところだったな」 広瀬はうなずいた。 「環境安全開発ソリューション協議会です」 「そうだった」東城は考えを巡らせているようだ。 「何かに関係しているんですか?」

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