9 / 34

第9話

 もう一台、母の寝室にベッドがあるから、と言って慶を説得したのだが、秀一はそこで眠る気にはなれなかった。  莫大な遺産を残して夫が死んだ途端、派手に着飾り男の元へ走った女。  秀一は、母をそういう目でしか見ることができなくなっていた。  鬱病を患っていることも、伝えていない。  そのせいで休職までしていることも、話していない。  僕は、僕。  あの人には、関係ない。  狭いソファで、みじろいだ。  今夜も、寝付けそうにない。  処方してもらった誘眠剤も、もう無くなってしまっていた。  秀一は起き出し、自分の寝室へ歩いた。  慶の寝ているベッドへ潜り込み、その広い背中にそっと手を当てた。

ともだちにシェアしよう!