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第36話

 ―ガチャ...  「...あぁ、わんこのお目覚めか、」  「叶江...」  ベッドから離れたところにある扉が開き、中から機嫌良さ気に鼻歌を歌う叶江が現れる。  手には飲み物が入ったコップとサンドイッチがあった。  「朝、食べるでしょ?」  「ここから出せ。何考えてんだよ、お前」  ここに来る前、夜はまだ食べていなかった。そしてここに来てからも。  もちろんお腹はすいていた。しかし、今はそれよりもここから出ることの方が重要だった。  「はぁ...食べる、だろ?」  「...いらない。それよりも早くここから出せ。こんな首輪も外せ」  やけに強調して問いかけてくる叶江に、一瞬怯むが先ほどと同じようなことを俺は繰り返し言う。  無言で俺の方へ近づいてくる叶江。先ほどとは違い、一気に叶江が不機嫌になったのがわかる。  息苦しい空気があたりに立ち込め、俺は眉をしかめた。  ベッドわきのサイドテーブルに手に持っている物を置くと、ベッドの上に片足をおきズイ、と顔のすぐ近くまで近づいてきた。  唇が触れそうになり、反射的に距離をとろうと叶江の肩をおす。  「近づく、な...くっ、い...っ」  「まーなと。お前、勘違いしてるよ?」  肩をおした手首をギリ、と掴まれる。骨が軋み痛みで力が入らない。  勘違い...?何が勘違いだというのだ。わからない。こいつの考えていることが何もわからない。  「ふ...っ、んんっ、ぁ...やめ、」  噛みつくようなキスをされ、体重をかけられるままベットに押し倒される。  思い出すのはあの三人との行為。冷や汗がこめかみを伝う。  「...はぁ、なぁ、朝飯食べるだろう?昨日だって“躾け”られて何も食べてないんだからさ」  「...出してくれよ。宵人が心配なんだ、もういいだろ?ここから――」  「うるさいな」  「...っ」  小さく舌打ちし、有無を言わせぬ瞳で睨まれる。 本能が言い返してはいけない。これ以上こいつを怒らせてはいけない、と頭の中で警報を響かせる。  「ほら、口開けて」  叶江は腕を伸ばし、サンドイッチを一つ掴むと俺の口元へ持ってくる。  口を開けて、大人しく食べなければ。叶江のいう通りに。  頭では分かっている。しかし、どうしてか身体に力が入らず固まってしまったかのように 唇が動かない。  「だめだなぁ...じゃあ、俺が食わせあげるよ」  そんな俺に痺れを切らしたのか叶江は持っていたものを自分の口に一口含むと、俺の鼻を塞ぎ、唇を重ねてきた。  「...んッ、..はっ...ぅ、んんっ、ぐ、」  呼吸が苦しくなり、酸素を求めて口を開けばその間から何かが入ってき、口内へ押し込まれた。  少し湿ったパンの感触に野菜、そしてハムのような肉の旨味が広がる。  「ははっ、なんか楽しい」  俺から口を離した叶江はすぐに手の平で俺の口元を押さえ吐きださせないようにしてきた。  ゆっくりと噛み、飲み込む。俺の喉が上下する所を見て、叶江は押さえていた手を離してくれた。  「餌付けってこんな感じなんだな」  「...や、やめろ。自分で食べ...んむっ...ん゛んっ」  そして再び叶江はサンドイッチをかじると同じようにして俺にそれをあたえてきた。

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