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第63話

 ――307...ここか、綾西の部屋は  俺の部屋の階が2階なのに対して綾西の部屋は3階だった。遠いというわけではないのだが、別段近いわけでもない距離。  弁当の入った鞄を片手に、手の甲で扉を3回ノックする。...が、出てくる気配が一向に無い。  「綾西くん、いる?」  一応周りを気にして外向きの呼び方で綾西のことを呼び、それから再びノックをするがやはり綾西は出て来ない。  これは沙原の言っていた通り、どこかに出掛けていていないか。それともただの居留守なのか。  「あの...もしかして綾西君に用事?」  どうしたものか、と考えていると急に後ろから声を掛けられた。  瞬間、俺は息が止まった。  ――この、声...  俺に掛けられたその声はよく聞き慣れた...しかし、ひどく懐かしい、愛しい声で。  「...宵人っ」  バッと声のする方を振り向く。  「え?よい、と...?」  しかしそこにいたのは当然のことながら宵人ではなかった。平凡的な顔立ちをした男子生徒がそこにはいた。    でも見た目で1つだけ気になる点があった。それは男子生徒の髪の色だった。ダークブロンドで外人染みた髪色。 根元まできれいに染まってるし髪が傷んでいないことから多分、地毛なんだろうことがわかる。    日本人の...しかも平凡な顔にこの色は合わないのでは、と思うものなのだろうが、なぜかその生徒にはその髪色がとても似合っていた。  「あ...ごめんね。人違いしちゃったみたいだ。君の声に似ている人がいてさ」  「あぁ、なるほど。びっくりしたよ」  見た目は宵人とは全く違う。だが“声”はそっくりだった。俺の大切な...大切な存在と。  未だ心臓が煩く鳴っておさまらない。1年半ぶりに聞く愛しい声に心が温かくなっていくのを感じた。久しぶりの感情、もう...ずっとなかった心の温かさ。  「あ、そうそう忘れるとこだった!あのさ、君、綾西くんに用事があったの?」  「...用事...あー、うん。そう。綾西君に用事があったんだけどいないっぽくて...」  「そのことなんだけどさ、綾西君ならさっき出掛けてったばっかりだから今、部屋にはいないよ」  「出掛けた、ばっか?」  目の前の人物の“声”に心を惹き寄せられ当の目的を忘れていた。    「うん。俺の部屋ここのすぐ近くなんだけどさ、ちょうどさっき部屋から出た時に綾西君が部屋から出ていくのを見て。そしたら君がすれ違いでやってきたから...って、なんか俺お節介だったかな」  そういい苦笑いする男子生徒。たしかに...見ず知らずの俺にわざわざそんなことを教えてくれるなんて...きっとお人好しな性格なのだろう。

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