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第65話

 「里乃、部屋きれいだね」  「おうっ、ありがとう。まぁ、てきとうに座ってよ」  男子高生の1人部屋と言うだけあって、変に覚悟をしていたのだがそんな覚悟もいらないぐらい 里乃の部屋はきれいに片づけられていた。  「なんか飲み物いる?」  「ううん、大丈夫。気遣いありがとう」  ゆっくりと椅子に腰をおろし、深く息を吸う。 トクリ、トクリと安定して心臓が動くのがわかった。  心地が良い。この状態で里乃の声を聞き続けたら、このまま自然と眠りに就けそうだ。  「愛都は綾西君と仲が良いのか?」  椅子の上でリラックスしていると、近くに座ってきた里乃はそう、問いてきた。  「綾西君とは...そうだね。ここに転校してくる前に一度会ったことがあってさ。その時に仲良くしてもらったんだけど...。でも、言うほど仲が良いわけでもないかな」  むしろ俺は綾西にとって、恐怖の対象になっているのだから。  「へぇ、そうなんだ。てか、愛都転校生だったのか!あーっ、あー、なるほど...だからか...」  「ん?何かあるのか?」  「いや、そんな大したことじゃないんだけどさ。...その、もうわかってるかもしれないけれどこの学校、中等部からエスカレーター式の男子校で女っ気が無いせいで男同士の恋愛が普通なんだよな。 だから必然的に顔が良い奴は人気ですごい有名なんだ。それなのに俺、愛都のこと全く知らなかったから少し不思議に思ってたんだよ」  ほら、愛都かっこいいから。最後の締めにそう里乃にいわれ俺は恥ずかしくなり顔を俯かせた。  ―  ――  ―――  「また、来てもいいかな」  「ああ!もちろん。いつでもおいでよ!そうだ、連絡先交換しない?今度は連絡とか取り合おうよ」  「うん、そうだな」  ズボンのポッケから携帯を出し、メアドを交換する。アドレス帳に新たに登録された“里乃”という文字に嬉しくなり頬が緩んだ。  あれからしばらくの間、里乃の部屋で楽しいひと時を過ごした後、俺は本来の目的を果たすために重い腰を上げた。  里乃はとても“よかった”。それは声だけでなく、中身もだ。  この短い時間でそれは十分に分かった。話も面白く、時折楽しそうに明るい笑顔を見せる。  そして、全く俺に媚びた態度をとらなかった。 このことが俺はとても嬉しかった。  ――やはり、里乃は他とは違う...雰囲気というか、何かが宵人と...似ている。  そのせいか、余計に里乃が...    「それじゃあ、またね」  「おうっ、また明日」  玄関まで見送りに来てくれた里乃に軽く挨拶をして、暖かな部屋を後にする。  「里乃...また、声が聞きたいな、」  パタリ、と閉まる扉。  やけに廊下の空気が冷たく感じた。

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