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第67話※

 「なんであいつが...」  恵の部屋から自分の部屋の近くまで戻った時、ふと、今しがた戻ろうと思っていた部屋の前にあいつ...千麻が立っているのを見つけた。  まだ千麻は俺に気がついていないようだったので今、戻るのはやめようと一歩後退する。 ...が、すぐに俺は自分の手の中にあるものを思い出し、目を細めた。  ――ちょうどいい。呼ぶ手間が省けたじゃん。さっそくこれを使おうかな。  俺は小瓶を制服のポッケの中に入れ、千麻の方へ再び歩み始めた。  「俺に何か用~?千麻」  「ん、綾西君。会えてよかった。今、大丈夫?夕飯たくさん作ったから持ってきたんだ」  話しかけると千麻は、いつもの表向きの顔で俺に対応してきた。  「夕飯?...何、あんたが作ったの?」  「あぁ、そうだよ。沙原君たちから綾西君は一緒に食堂に行かないって聞いて。まぁ、結局香月君達も俺が作ったのを食べててさ、」  こいつが作ったのなんて、何が入ってるかわかったもんじゃない。香月達が食べたということにも俄かには信じがたい。 千麻が言うことは何も信じられない。  何のつもりでこんなことをしてきたのかは分からないが、何もかも信じてあれを食べることなんてできない。  「ふーん。でも、いらなーい。それ持って帰ってよ。あっても捨てちゃうから~。ま、でも部屋には上がって行ってよ。ここまで来た苦労は労ってあげる」  「...うん」  そう言って悲しげに笑った千麻の顔が何だかやけに視界に焼きついた。  「コーヒーでもよかったぁ?今、お茶切らしてて何もないんだよねー、」  「あー、どうも。綾西がわざわざコーヒー用意してくれるなんて思わなかったよ」  コーヒーの入ったカップを渡せば、軽く笑いながらそう言われ俺は口元がヒクリと動いた。  このコーヒーには先程恵からもらった媚薬が入っている。媚薬を千麻に摂取させるためにコーヒーを用意したのだが、さすがにこの行動は分かりやす過ぎただろうか。  千麻が何かに感づいてコーヒーに口をつけなかったらどうしようかと思ったが、そんな危惧も千麻が普通にコーヒーを飲んだことによって想像に終わった。  「ねぇ、綾西。このコーヒーさ、」  ふぅ、と小さな安堵の息を吐いた瞬間に掛けられた千麻の言葉に俺は唾を飲み込んだ。  やはり、バレてしまっていたか  「そのコーヒーが何~?」  しかしここで取り乱すわけにもいかず、俺はいつもの表の自分を作った。  大丈夫...大丈夫だ。だって作ったコーヒーを一口飲んで味の変化があるかどうか確かめたじゃないか。その時、特に味の変化はなかった。 きっと大丈夫、きっと...  だけど頭の中を廻るのは恵のあの言葉だった。  “愛都にそれ、バレないかな”  手の平に緊張の汗を掻いた。

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