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第76話
どうして、俺は叶江の部屋にいるんだ。
― まさか香月とのことは全て夢だったのか?
「...っ」
だが、少し身動きしただけで体中の節々が痛み、あれは現実だったのだと思い知らされた。
「黙って寝てな。お前が気失ってる間に体も全て洗ったからどこも気持ち悪くはないでしょ?事を順調に運ぶには休息も必要だと思うけど」
「...るせぇ、帰る...。帰って、自分の部屋にある自分のベッドで寝る」
「はぁ、頑固だな。俺が寝ろって言ってるんだから寝ろ」
そういうなり叶江は俺を抱きしめる力を強めてくる。その行動のせいで酷使された体が悲鳴をあげ、俺は仕方がなく叶江の言う通りにすることにした。
俺が大人しくしていると叶江は徐々に力を弱めていき、首元に顔を埋めゆっくりと呼吸した。
じわりじわりと広がる温かなぬくもり。叶江はいつもと同様、上半身裸でいるようだった。
そして俺もまた昔同様、服も何も身に纏っていない状態だった。
唯一の救いはダブル用なのか、大きめの肌触りのよい布が掛かっていることだけ。
「...何のつもりなんだよ。今回のこと、全部」
シン、と静まり返っている部屋の中、俺はポツリとそう呟いた。小さな声音だが、それはこの空間ではちょうどいい大きさだった。
「うーん、余興?」
「あ゛?ふざけるな、まじめに答えろ。お前は一体何がしたいんだ。俺に何をさせたいんだよ」
「...なんだろうな。考えてみなよ、その賢い頭でさ」
クックと楽しそうに、静かに笑う叶江に俺は思わず舌打ちする。こっちは真剣に聞いているのになんなんだ。こいつの態度は。
「そうだな。馬鹿なお前に聞いた俺が間違っていた。」
「あー、そういうこと言っちゃう?」
「...。」
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