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第84話
「はぁ...」
体力があろうと、やはり2日続けての性行為は疲れるものだ。ケンカをした後とはまた違う倦怠感が心身ともに纏わりつく。
結局午後の授業はサボってしまった。携帯の時計を見ると、ちょうど15時になる頃だった。
―このまま帰るか...鞄は置いていこう。どうせなにも貴重なものなんて入ってないし...そんな鞄をわざわざ取りに行くのも面倒だ。
そう思い立つやいなや、俺は重たい足腰を持ち上げ、寮に向かって歩いて行った。
―
――
―――
「...ん...何、」
急に体に何かがくっつき、緩く締められる。
あまり深い眠りではなかったせいか、その行為で俺は目を覚ました。
寝ぼけていたせいで、また叶江に抱きつかれたのかと思ったが、すぐに違和感、疑問を感じそっと後ろを向いた。
「...沙原」
叶江にしては少し小さな体格に、細い腕。
―そもそも、叶江がいるわけないしな。
そっと体を起き上げ、眠っている沙原を体から離す。
シングルベットに男2人はやはり狭い。じわじわと感じる他人の体温が気持ち悪かった。
近くに置いておいた携帯を見ると、時刻は夕方頃と夕飯時を示していた。そろそろ夕食の準備をしよう、と面倒くさかったがキッチンへと向かって歩こうとする。
「...っと、危ない」
「待って、愛都君」
しかし上着の裾を引っ張られ前に踏み出しかけた足は後ろに下がった。
「ごめんね、沙原君。起こしちゃったかな」
バランスを取りなおし、上体を起こした沙原に近づけば甘えるように俺の体にくっついてきた。それに対し思わず口元が引きつりそうになる。
「どうしたの?沙原君。」
「...話をしよう。愛都君と話がしたいんだ。...帰ってきたらゆっくり話をしようって言ってたでしょう」
「あぁ、そうだったね。でも今は夕飯を作らなきゃ――」
「あのね!今日は僕と愛都君2人でご飯が食べられるよ!和史たちには夕食は別々にしてもらったんだ」
「え?...よく2人とも了承したね。俺と沙原君2人でなんて、反対されたんじゃない?」
「ううん、大丈夫。これくらい。それよりもね、今日は――」
「あー、とちょっとストップ」
未だに話し続ける沙原の口を俺は慌てて手で塞ぐ。
このままではいつまでも長く話されると思ったのだ。こっちの都合も気にせず、沙原は話を続けようとする。
自分勝手な沙原に嫌気がさしてしまう。きっと今まで自分の思う通りに事が済んできたのだろう。
だから他人のことなど考えずに行動するのだ。
「...っ!」
その時、沙原の口を押さえていた手をべろり、と舐められた。その反動で俺は押さえていた手を沙原の口元から離す。
「何を考えてたの?ねぇ、話をしようよ。僕、愛都君と話がしたいんだ」
そう同じようなことを繰り返し言う沙原の瞳には、いつものような無邪気さは感じられなかった。
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