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第92話
「なぁ、愛都!俺さ、昨日とっておきの場所見つけたんだ」
「とっておきの場所?」
何冊かの本が入って少し重くなった鞄を持ち、すぐ隣にいる里乃に目を向ける。
「おう、よかったら今からちょっと行ってみないか?」
「それは行きたい...けど、俺に教えちゃってもいいの?」
「いいのいいの!愛都だけに秘密で教えてあげたいんだ」
「本当?嬉しいな、ありがとう」
そうして里乃の提案の元、愛都は帰り道を少しそれてもう少し長く里乃といられることになった。
学校を出てからすぐそばの森に入って数分。その間愛都は里乃の後ろをついて歩いていた。
「里乃、こんな所を1人で歩いていたのか?」
「うん。俺、散歩するのが好きでさ」
「そっか、」
里乃の返答に思わず笑ってしまった。
散歩と言ってもこんな森の方になんて、金持ち坊ちゃんたちはきっと誰も来ないだろう。
...意外と里乃は冒険家なのかもしれない。
それからまたしばらく歩き、少し疲れてきたなと思った頃、里乃は嬉しそうな顔で俺の方を振り向いた。
「ここだよ」
里乃に言われるまま前を向いた愛都は思わず息をのんだ。
「ここ、は...」
目の前には見上げるほどの大きな大木があり、その周りを囲むようにして色鮮やかな花が咲き乱れていた。あたり一帯にきれいな光景が広がる。
そしてなぜこんな所にあるのか、大木の隣には2人用のベンチが置いてある。
その光景には見覚えがあった。
―宵人が前に見せてくれた写真と、同じ光景だ。
そう気がついた瞬間、胸の内からドッと何かが溢れ、目頭が熱くなった。
―
――
―――
『愛都、すごくきれいでしょ。僕のお気に入りの場所なんだ』
そう言って俺に写真を見せてくれた宵人の姿が鮮明に思い浮かんだ。
「宵人も...ここに来てたんだ...」
宵人と同じ光景を、見ている。宵人のお気に入りの場所。
そこに偶然、俺は来ることができたんだ。
『本当は愛都と一緒にここに行きたかったんだけどね。でも、それは難しいことだから』
写真を見つめ、
『ほら、このベンチに座ってさ、ゆっくりくつろいで...』
そして俺に微笑みかける宵人の姿
「え、ま、愛都!?」
俺は堪えることができず、そのまま涙を流した。
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