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第93話

 本当、自分は宵人のこととなると、てんで弱くなる。しかも里乃の前であんな...  「はぁ...」  「少しは落ち着いた?」  「...うん、もう大丈夫。ごめんね、心配かけちゃって」  「ううん、俺は構わないよ」  涙の乾いた目をゆっくりと瞬かせ、深呼吸する。 里乃もそんな俺を見て、漸く安心したように胸を撫でおろしていた。  それからはただひたすらに沈黙が続いた。  2人でベンチに座っているだけ。聞こえるのは風がもたらす葉の擦れる乾いた音や、鳥の鳴き声だけ。  だが、今の俺にとってそれはとても心地よく感じた。 そして俺が泣いた理由を探ろうとはしない里乃にもひどく感謝した。  ―  ――  ―――  「それじゃあ、俺はもう1階上だからここで、」  「うん、また明日」  里乃を1人残し、俺は寮のエレベーターから降りる。 トン、と扉が閉まり里乃がいなくなった瞬間、俺は顔から笑みを消した。  今日は色々あったが、さらに俺の決意を固めらせる日でもあった。  ―全ては宵人のために。  宵人の小さな幸せも何もかも奪い、自分たちだけ幸せに生きていた奴らからその幸せを奪う。  まずは最後のひと押しといこうじゃないか、綾西。  愛都は上着のポケットから携帯を出すと、アドレス帳からある人物を探しだし電話をかける。  「もしもし。あのさ俺、面白い画像持ってるんだけど.....」  徐々に歪んでいく自分の顔が、暗くなり光に反射した窓ガラスに醜くうつった。  

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