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第97話※
あるのは不安だけ。状況が状況なだけに言い知れぬほどの恐怖と不安が俺を責めてきた。
「あいつらなら、ここにいないよ?綾西」
「...っ!」
そして緊張が最高潮に高まった時、頭から離れることのない、あの憎い声がスッと耳を通して俺の中に入ってきた。
その声に反応した俺は何も考えることもなく、怒りのまま思い切り扉を開けた。
「千麻...っ」
「随分勢いよく扉を開けたね。ついさっきまでビクビクしてただろうに、さ」
「許さねぇ...お前のせいで、俺は...っ」
扉を開ければ思った通り、そこには冷めたい眼差しを向ける千麻が立っていた。
しかし俺が憎しみの目を向ければ千麻は嬉しそうに笑み、目を輝かせた。
「シナリオは気に入ってくれたみたいだな。俺もすごく楽しいよ、お前の滑稽な様を見ることができて」
「ふざけんな!」
「んっ...何、離せよ綾西」
「許さない...俺がどんな思いをしたか...」
下へ続く階段を背に立つ、千麻の胸倉を掴むが千麻の表情が歪むことはなかった。
むしろ余裕すら感じさせられた。
「随分と余裕なんだな...そうだ。なぁ、千麻、もし俺がこのままお前を押せばお前はどうなるかな...ここじゃあ、手すりも少し遠いし...落ちちゃうね」
「...」
「打ちどころが悪ければ死ぬし、運が良くても無傷ではいられないよ?」
下を向いて黙る千麻に、俺は漸く支配感を得た気分になった。
この状況ではさすがに千麻も内心慌てているはずだ。
「あははははっ、いい気味だな...落ちて...苦痛で歪む顔を俺に見せてよ」
その時、俺は一気に有頂天になってしまっていた。
だから気がつかなかったんだ。
俺たちを見る、第三者の存在に。そして、
下を向いている千麻の顔に笑みが浮かんでいる、ということに。
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