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第104話
緊張で汗を掻く手の平。高まる鼓動はおさまることなく、俺を責めたてる。
目の前にある病室の番号はもう何度も確認した。
医者には絶望的だ、とまで言われた意識の回復。
嬉しさのあまり、腰の痛みも忘れ早朝、日が昇ると同時に待機させていた家の車に駆け込んだ。
山奥にある学校からこの病院まで3時間もかかった。その3時間の間、俺は宵人のことで頭がいっぱいだった。
宵人と話したいことはたくさんあった。だけど真っ先に言うべきことは...
― 一緒にいてあげられなかったことへの謝りの言葉だろう
深呼吸すると愛都は2度扉をノックし、静かに開けた。
「...っ、よい..と、」
顔を上げた先にいたのは愛しい宵人の姿。
上体を起こし、ベッドの上から窓の外を眺めるその姿に愛都は息をのんだ。
一歩、また一歩と宵人に近づいていく。
痩せてしまった細い体。長い間屋内にいたことによって、肌は一切日焼けをしておらず透き通るように白かった。
「宵人...宵人...っ、―――ごめん、一緒にいてあげられなくて...っ、」
そして宵人の目の前に近づいた時、俺は言葉を振り絞って謝った。――しかし、
「宵人...?」
宵人は愛都が近付いても、話しかけても無反応だった。
体もピクリとも動かず、まばたきさえもしてはいないのでは、と疑うほどであった。
「...宵人...許してくれとは、言わない。でも...少しでいい、また前みたいに一緒に話をしたいんだ、」
前にかがむと、ギュッと手を握り真摯に見つめる。
こんな俺なんか見たくもないのかもしれない。きっと俺が宵人のことを見捨てたと思っているのだから。
だけど...それでも...一言でいい、俺はまた宵人自身の声が聞きたかった。
だが依然として宵人は何も反応することはなく、ただただ窓の外を見つめている。
「失礼します。あの、愛都さん少しお話してもいいですか?」
その時、ノックの音が聞こえ、様子を窺うようにして看護師と医者が1人ずつ入ってきた。
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