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第132話

 「あ゛ー、朝から気持ち悪い、」  扉を閉め、洗面所に籠もる。何度も口内をゆすぎ、出された香月の精液を吐き出す。  日に日に増していく香月からの執着。愛都を見るその瞳は欲にまみれ、淀んでいた。  「本当...馬鹿な奴。」  入念に歯を磨き、着替えも済ませてしまう。そうして準備を終え、洗面所から出ようと扉の取っ手に手をかけた時、  「香月君、ただいまー!」  「...ッ!」  すぐそばの玄関の扉が開く音がし、聞こえてきたのは...――― 里乃の声。  「香月君...?って、うわ!何でそんな服乱れてるの?昨日、そんなに暑かったかな?」  スタスタと歩く足音が止まったかと思えば、何とも能天気な言葉が扉を通して聞こえてくる。  まさか、こんな早朝に里乃が帰ってくるとは思いもしなかった愛都は焦りを感じていた。靴は玄関に出しっぱなしだったが、会話を聞く限り、幸いにも里乃はこの部屋に第三者がいるとは気がついてはいない様子だった。  ― 見つからないうちに、早くここからでなきゃ色々とヤバいことになるな...  愛都と里乃の仲を一度でも他の人間はもちろんのこと、特に香月に見られてしまえば、それを知った香月に里乃がどんな目にあわされるか...。その時の香月の行動は手に取るように分かり、容易に想像できた。  ― 里乃のことは...誰にも傷つけさせない。俺が、守るんだ。  愛都はもう二度と“この声”の悲痛な叫びを聞きたくなかった。  「そう言えば香月君ってさ、昨日――― って、寝てるし。もう朝なのに、起きる気ゼロだなぁ」  遠ざかる声。出るなら、今か。そう思った愛都はそっとドアノブに手をかけ、扉を開けた。  「 だれかいるの? 」  「...っ、!!」  その時、遠くからそんな問いかけをされる。同時にバクバクとなる心臓。そして近づく足音。  密室の中、隠れることもできず、ただただ立ち尽くす愛都。  ― 見られ、たくない...  足音が近づくたび、そんな感情が溢れだしてきた。  先程までは里乃との中を香月に知られたくないという考えしか浮かんでいなかった。しかしいつしか愛都の脳内には別の感情が溢れるように湧きあがっていた。  色濃く自分に付きまとう“穢れ”。今、里乃に見つかってしまえばそれら全てがバレてしまうような気がした。  訪れる妙な背徳感。  「...ぁ、」  一秒刻むごとにそれは愛都の胸を締めつけていく。  

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