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第135話

 「どういうつもりだ」  思っていたよりも低い声音。しかし、怒りのまま怒鳴り散らさなかった自分を褒めてやりたいぐらいだった。  目的の部屋に着いてすぐ、愛都はノックをすることなく部屋に入った。しかし、それに対して部屋の主は愛都が訪れることを知っていたかのように笑みを浮かべて出迎えてきた。  「んー?何のことかな、」  「...ッ、とぼけるな!写真だ、羽賀里乃に俺の写真を届けさせただろ」  そう言えば、「あー、あれね、」と叶江はわざとおどけた様子でポン、と手を叩いた。  「ふざけるなッ、もし、あの写真を羽賀が見ていたらどうするつもりだ」  「はははっ!よーく撮れてたでしょ?...でもさ、本当にあいつは見てないのかな?見たことを隠してるかもよ...写真が衝撃的過ぎて。もしかしたら愛都の写真で一回抜いてるかもなぁ、」  「...ッ!」  叶江のその言葉を聞いた瞬間、あらゆる負の感情が愛都の中でせめぎ合った。  まだ、愛都自身を嘲笑されるのは我慢できた。ただ...――― 里乃を貶すような、その言葉だけは許せなかった。  一瞬、額に血管が浮かぶ。  しかし、叶江は愛都が怒りを見せれば見せるほど喜び、楽しんでいるのを知っていたため、何とか感情を抑え込んだ。  静かに息を吸い込み、そして吐きだす。そうすればいくらか怒りを紛らわせた。...根本的なものは静まらなかったが。  「あぁ、そうか。あんたも欲求不満?あんな写真撮りながら、1人で抜いてたんだろ?...――― 相手、してやろうか」  ニヒルな笑みを浮かべて一歩一歩、ゆっくりと叶江に近づいていく。  そして挑発するかのようにベッドの上に座る叶江の目の前に立ち、首元に手を回し耳を舐める。  だがしかし、それに対する叶江の反応は予想外のものだった。  「いいや、結構。俺はこれから約束があってね、朝まで楽しむんだ。...悪いな、お前の相手ができなくて。」  「...ふん。あぁ、そうかよ」  「まぁ、わざわざ俺を誘うためにここまで来てくれたんだ。土産はやるよ」  そう言うなり、叶江は愛都の腕を掴み、引き寄せると首筋に強く吸いついてきた。  「い...ッ!」  覚えのあるその感触に、思わず愛都は叶江の胸元を強く押し返し距離をとった。  ― コンコン、  そのタイミングで突然部屋にノック音が響く。  「入っておいでよ、」次に聞こえたのは叶江のその声。  そうして入って来たのは、小柄な男だった。男臭さの無い、中性的な顔立ち。  「それじゃあ、恵君。先生に頼まれたものも届けたし、俺はもう戻るな」  第三者の目ができてしまったため、しょうがなく猫を被り愛都は叶江の部屋を後にした。  ジトっとした、重苦しい視線を背中に浴びながら...  ― クソ...ッ、こんな痕ついてたら香月が五月蠅くなる。せっかく順調にことが進んでるのに。  とりあえず今日は暗闇の中で香月と行為をしなければ...。そうすれば痕は上手く誤魔化せる。  そして、部屋を出て廊下を歩く愛都は動揺することなく、首についた痕について対処法を考えていた。  

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