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第137話

 「愛都君、愛都君!ねえ、いまから予定入ってる?」  それは、旅行最終日の夕方のこと。ここ最近、色々と理由をつけては避けてきた沙原が今、愛都の腕を掴み、呼び止めていた。  「いや、今は特に。何か用かな?」  昼間は教師の目を盗んで香月と旅行中で最後のセックスを行い、あとは綾西との約束があるだけだった。しかし、今は日暮れ時。  ー綾西とは...まぁ、夜に会えばいいか。  特に時間の指定はなかった。それならこちらの好きなように動く。それに誰が好き好んでこんな日も暮れないうちから犯されることを望んで綾西の元へと行くであろうか。  それに沙原にも目を向けてやらなければいけない。そう思い、久し振りに沙原の話に乗れば、目の前にいる本人は瞳を輝かせ、ニッと口元を横に引いた。  ——  ————  ———————  その後、愛都は沙原とともに大浴場へときていた。ちょうど夕方頃ということもあり、多くの生徒は夕食にいっているのか、人気はあまりなかった。  脱衣所に入れば愛都は淡々と服を脱いでホテルに兼備されているタオルを腰に巻く。  すぐ隣にいた沙原はその間、ちらちらと愛都の方を見ながら服を脱いでいった。  色白でキメの細かそうな肌には傷一つなかった。守られて、守られて、守られて。そんな体を作り上げるのに一体どれだけ宵人が傷ついてきたのか...。  正直、こんな感情は八つ当たりだとわかっていた。それでも、自分の少し前を歩くその体を睨みつけ、汚れてしまえばいいのにと思わずにはいられなかった。  それから沙原と軽い会話をしながら体や頭を洗う。周りからは天使などと呼ばれる沙原だが、その視線は愛都の首筋や腰、性器に向けられていた。...とんだエロ天使だな、と笑ってしまいそうになる。  「...あの、愛都君...」  そして白く濁った泡風呂に入った時、沙原はおもむろに口を開いてきた。  「その...体についてる赤い痕って、」  風呂に入っているせいか、もしくは別の理由でか...沙原は顔を赤くし、チラリ、と愛都を横目で見る。  たしかに、今の愛都の体のあちこちには赤い痕がついていた...もちろん、それは香月につけられた。別段、そのことを忘れていたわけではなかった。ただ、からかいついでに沙原の反応が見てみたかった。  「あぁ、...これね。実は綾西君がさ...ちょっとふざけて。あいつ、人にベタベタするのが好きだから。」  色香を放つことなく、爽やかに笑い、そう嘘を告げる。そうすれば沙原は何かを言おうとしたが、咄嗟に言葉を飲み込み口を閉じた。  訪れるのは沈黙。愛都の方からはそれ以上何かを言うことはなかった。  「...僕も、愛都君にベタベタ...したいな」  「...沙原くん、」  そうしていれば、突然スッと撫でられる太もも。白く濁った湯の中、周りからは何も見えないことをいいことに、その手は内腿に触れ、性器をさっと撫でた。  「こんな僕は、いや...?」  蒸気した頬。上目遣いで見つめてくるその瞳が愛都にはどす黒く見えた。

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