138 / 140

第138話

 「探したよ、愛都」  そんな時、底冷えするよな声が沙原と愛都の間にあった怪しげな空気を断ち切った。  「...泰地、」  そして隣から聞こえた声は、心底嫌気がさしているような口調のもの。  鋭い視線が突き刺さる方を見れば、大浴場だというのに裸にはならず、服を着たままの綾西の姿があった。  「愛都、約束...。早く部屋に行こう」  鋭い眼差しは愛都と視線が合わさることにより、突如として甘いそれに変わる。元々垂れ目気味のそれは優しげに弧を描いた。  「...っ、ちょっと待って。ねぇ泰地、お風呂くらい愛都君にゆっくり入らせてあげたら?なんか自己中じゃない?愛都君だって、ゆっくりしていきたいよね...僕と、」  綾西に向けられる、刺々しい言葉。その後、愛都に向けられる縋るような言葉。綾西はそれに対して怒りを表すかのように、顔を歪めさせ「このクソビッチが...」と暴言を吐き捨てる。  そして沙原の不意をついて愛都の腕を掴むと、そのまま上に引き上げた。  「あ、綾西君危ないよ。ちゃんと俺1人で出るから、」  「愛都、早く行こう」  乱暴なその行動に愛都は思わず舌打ちをしてしまいそうになる。別段沙原を擁護しようとは思っていないが、この目の前の男が自己中心的であるということには同意見であった。  「愛都君...ッ、」  「っ、ごめんね、沙原君。俺、もう上がるね。沙原君はゆっくりしていって」  「で、でも...っ、僕、愛都君と...」  自分のもとから愛都が去ることがわかり、沙原の思いの矛先は綾西ではなく、愛都に向けられる。  ハの字に下がった眉。泣きそうに歪められる顔。それは、大抵の人間なら一発で落ちてしまいそうなもの。しかし愛都は正直、男のくせによくもまぁ、こんな表情ができるものだな、と冷静に見ていた。  「沙原君、俺...さっきの続き、今度してみたいな」  「...えっ、」  綾西の手から離れ、スッと沙原に近づきそう言えば、その瞳には期待の光が宿る。  すぐ後ろにいる綾西は愛都が何を話しているんだ、と気になり、やきもきしている様子であったが、一瞬にして空気を読み、グッと押し黙って待っていた。  何だかんだ言っても、綾西は“愛都の計画の邪魔はしない”という面だけでは忠犬だった。  「こんな俺こそ、逆に嫌じゃないかな、」  そう呟き、先程沙原にされたように、沙原の性器に触れる。  「俺、結構激しいから...覚悟してね、」  そしてそのまま握りこみ、数度それを上下に扱きあげれば、沙原は気持ちよさげに小さく喘いだ。  一気に硬く張りつめた性器。しかし、愛都は意地悪気に手を放すとその手で沙原の頬を撫でニヒルに笑う。  「俺のこと、嫌いになっちゃったかな...」  「う、ううん。そんなこと...ない、」  「よかった。じゃあ、またね沙原君」  立ち上がり、湯から出る愛都の性器は当然のことながら萎えたままだった。  だが沙原は恍惚とした表情で、遠慮することなくそこを瞳に焼き付け続けていた。

ともだちにシェアしよう!