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降るか降るまいか

「結構広いじゃん。わぁ、このソファーいいな。俺ここで寝るわ」 だからその辺は気にしないで、と言いながら、キャリーケースを部屋の隅に置く。 「……泊めるなんて言ってないけど」 そのソファーは俺のベッドだ。別室に敷布団があるがタンスの肥やしになっている。仕事から帰ってそのまま倒れ込むようにして眠りたいから、大きくゆったりとしたソファーを買ったんだ。L字型で幅は六十センチ以上。小さいテレビを前にして横長のテーブルと一緒に並んで置いてある。 彼の身長は俺より十センチほど高いか、その脚も伸ばして横になれる大きさだ。俺の冷たい声を聞くと、横になったまま見上げてきた。 「ダメか?」 「大体、何で俺なんだ。友達とか……」 「いない」 呆れて頭をかきながらボヤき始めようとしたが、急に空気を変えた即答に口を結んだ。横目で伺うと、のっそりと上体を起こして俯き加減に黙っている。 何か事情があるらしく、ただのホームシックでも無さそうだ。でも他にいないからと言って、連絡先も知らなかった奴の家に来るのか。俺はその訳に興味は湧かず、突然の侵入者に手を焼く思いだが。 「この前電話した日さ、向こう雪降らなかったんだよ」 ふとそう言ってにっかりと笑った。「それが?」と顔に出てしまったんだろう、俺を見て苦笑いに変わると、荷ほどきをし始めた。 「冬は毎日降るもんだと思ってたけどさ、青空まで見えて良い天気な日もあるんだ。だから、何か決断する日に、雪が降ったらやらない、降らなかったらやろうって、コインの裏表みたいなことしてみたんだ」 ケースの中から部屋着一式を取り出すと、それを持って立ち上がる。 「降らなかったから、来た」 嬉しさが滲む微笑をされた。思わず目を逸らすと、すぐ横を通られて「風呂借りるぞ」と言い去られた。 その場にへたり込んだ。深いため息が出て、ついでに深呼吸もする。 今日は体調を崩して会社を休んでいた。回ってくれない頭では何も考えられない。とりあえず今晩は泊まられてしまうんだろう。明日の朝、ちゃんと追い出そう。 洗面所の方からシャワーの音が聞こえる。 雪が、降ったら、降らなかったら。 元々は降ったらやろう、降らなかったらやらない、だったはずだが、雪が降りまくる地域に住み始めてからは、その逆でやっているんだろう。彼が昔誰かと話していた、冬限定の決断の仕方。 何故だか無性にむず痒くなって、耳を塞ぐように腕に顔をうずめた。

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