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常識
足先が冷えている。雪が降っても良い天気でも、どの地域でも冬の朝は寒い。俺の影を半分かけて暖かな日差しを浴びる彼の顔を見ているけど、言葉が出てこない。先に目を逸らしたのは相手で、ノートをテーブルに置いた。
知らないうちに掛けられていたタオルケットを握りしめる。
「違ってたら悪いけど。もしかして、俺のこと好きだったりした……?」
否定しようとして口を開けたけど、震えて形も作れない。何も言わないのはそうだと言っているようなものだ。早く、否定しなければ。
「鳴日」
ハッとして顔を上げた瞬間、彼の腕に包まれた。突然の温もりに思考が止まる。でも、これにはすぐ体が動いたのは、本当に不味い状況だと思ったからだ。
押し離した時に触れた胸板はしっかりとしていて、ガタイの良さを感じてしまってすぐ手を離した。ウブな反応をする自分に顔をしかめる。
「……男に何してんだ」
「そうだけど……。でも何も言わねぇってことはお前、好きだったんだろ」
「……好きだったから、何だよ……。なんで……、そんな事するんだ」
苦しい。身体だけでなく心まで苦しくて、冷や汗も出てくる。触れるほど近くにある手がまた来そうで怖い。
「本当に分からなかったんだ。すぐ返して聞けばいいものを、聞けなかった。そんな自分も意味分かんなくてさ。でもまぁ、男同士、だからだろうな……」
彼は一つため息をついて、一人分の空間を無くして座り直した。近い。
「気になってたのは確かなんだ。頭の隅にずっとあって忘れられなくてさ。……だから、確かめに来たんだ」
何だか変な流れになってきた。尚居心地の悪い空気に息がしづらい。握り拳を作る俺の手に、無骨な手が被さってきた。けど違和感を覚えたのかピクッと離れて、隣に並んだ。小指同士だけ触れている。
その気持ちは俺も分かる。
変なんだ。
気にはなるけど、いざ触れると思っていた感覚とは違う。柔らかい女のそれでは無いせいか、やはり俺達は男なんだ。
それでも気持ちが消えることはなかった。
どうしたらいいか分からないから、俺はそれを置いてきた。だからずっと忘れていた。こんな形で思い出されるなんて思ってもみなかった。
視線だけ動かして隣を見る。眉を寄せて唇をすぼませて、くすぶっている。そんなまさか、あんたがそんな顔をするなんて。小指から伝わる熱がどうしようもなく熱く感じる。
「……今日さ。雪、降った?」
徐ろに聞かれた。お互い前を向いて俯いたまま、俺はその真意に目が泳ぐ。
「……ふ、降って、ない……」
決断の仕方だ。でも今日降ったかどうかなんて、外を見れば分かるだろうに。もしかして、遠回しに俺の気持ちを聞いたんだろうか。俺の答えを聞いたのか。俺は、「して良し」と答えてしまったのか。
理解した時には手が上がってきて、静かに抱き締められた。
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