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第3話

 彰の部屋は、築40年の1LDKだった。  外観は昭和の香りが漂う古臭さだけど、中は悪くない。  間取りも広く、すっきりと片付いていて、まったりと落ち着ける。  図体がでかくて、男くさい外見から想像できないけど、彰は昔から綺麗好きで、片付けが上手だった。  その上、料理もうまい。  非の打ちどころがない。  そうなると、あら探ししたくなるのが人情ってもの。  家探し♪ 家探し♪  ワンコ能力を最大限に使って、完璧に片付けられた室内をさぐっていると、察知したのか、後から抱き上げられた。 「桜? 風呂に入るよ?」  はい?  誰と誰が?  まさか、俺とお前??  無理、無理、無理っ!!! お前、一人で入れよっ!!   表情に出ていたのか、彰が困った顔で言った。 「今日一日、外にいたんだろう? キレイにしないと?」  そうだ、俺、ワンコだった。  自分では、洗えない……。  しゃーない、一緒に入ってやるかっ!  俺の心の声が聞こえたのかは知らないが、彰はニッコリと嬉しそうな顔をすると、そのまま、脱衣所に連れていった。  服を脱ぎ捨てると、再び俺を抱いて洗い場に移動した。  ちらりと彰のものが視界に入る。  !?  デカっ!  こいつのって、こんなんだったけ?  そこには、使い込んでいそうな色合いの立派なものが鎮座していた。  無防備に、ブラブラさせているのを見て、ちょっと、ドキドキする。  通常時でこの大きさってことは、出動時には………大変なことになりそう。  って、何を考えてるんだよっ! 俺っ!  自分で自分に突っ込みをいれる。  たとえ、大変なことになったとしても、俺には関係ないからっ!   全然、全く、これっぽっちも関係ないったら、関係ないっ!  彰は、そんな動揺に気付くことなく、俺の体をシャンプーで洗い始めた。  ワッシャ、ワッシャと地肌をマッサージするように洗う。  ちょうどいい力加減で、気持ちいい。  うっとりしていたら、彰の目線が俺の股間で止まった。 「桜って、男の子だったんだ? 可愛い顔をしているから、てっきり女の子だと……」  目を真ん丸にして驚いている。  あー、はいはい。お決まりのセリフ。  物心ついてから、ずっと言われ続けてきましたよ、それ。  俺はうんざりして、ツンと顔を背けた。  確か、お前との初対面も、そのセリフだったよ。  学ラン着用の入学式で、全く同じ言葉を俺に言ったんだ。  まさか、犬になってまで、同じことを言われるとは思わなかった。  6年前(さらに5年過ぎているらしいから11年前か?)の記憶を手繰り寄せていると、俺の股間に手が伸びてきた。  もちろん、彰の手だ。  サワサワと、睾丸を揉み扱く。  げげっ? 何???  !!!!!!!!!!!!!!!!!  頭の中をビックリマークが100個くらい飛び交う。  お前、何をしてるんだ?  今、握っているのは睾丸だぞ?  身を引いて、その手から逃れると、すぐさま尻尾を巻き込んで股間を隠した。  そして、グルルと呻り声をあげて、ネコパンチじゃなくてワンコパンチを繰り出す。  ワンコだからって、何をしてもいいって訳じゃねーからよ! ワンコを舐めんな!!  彰は、すっかり後ろに倒れてしまった俺の耳を見て、目を見開いた。 「うわ、ごめん。ついっ! 悪かった。許してくれ」    なんだよ、それ??  単に、ワンコの睾丸を触ってみたかったってことか?  どうにも、納得できない気持ちでいっぱいだけど、ちゃんと、頭を下げて申し訳なさそうに謝ったので、今回は許してやることにする。  それにしても、油断も隙もないっ!  でも……ちょっと、いや、かなり良かった。  …………。  認めよう。ものすごく、気持ち良かった。  揉み扱くような、絶妙な力具合に、こともあろうに、俺は勃起してしまっていた。  だから、慌てて尻尾で隠したんだ。  何たる不覚。一生の恥。こんなこと、悔しすぎる。  まだ、動揺はおさまらないけど、頑張ってポーカーフェイスを装う。  あー、ダメだ。  さっきまで、何ともなかったのにのぼせてきた。  クラクラする。  湯船から一足先にあがると、わざわざ、彰の目の前でブルブルして水分を飛ばしてやった。 「うわー」  水滴が顔にかかったみたいで悲鳴をあげる。いい気味だ。  些細な嫌がらせが成功したことに気分を良くして、大人しくドライヤーしてもらう。  今度は、変な所を触られないように、警戒は怠らない。 「キレイな亜麻色の所や、手触りも全く一緒だ……」  そういいながら、もふもふの俺の体に顔をうずめる。  あいつの吐く息が、妙に、くすぐったい。  そういえば、泊まりの時は、大抵、彰にドライヤーしてもらった。  自然乾燥でいいって言っているのに、風邪ひくからって。  オカンみたいなやつだって思っていたけど、あいつ、あの頃から俺の事を好きだったのかな。  そんなことをつらつらと考えているうちに、ドライヤーの温風とカリスマ美容師のような手つきに心地よい眠りの世界に誘われた。  こいつ、手先が器用なんだよな。  マッサージも、すごく上手だし。  セックスもうまそうだ。  気がつけば、俺は、ワンコのくせに盛大ないびきをかいて熟睡していたのだった。  目覚めたときは、ベッドの上だった。  彰の気配はない。もう、仕事に出掛けたようだ。  出かけても気付かずに寝たままって、ワンコとしてどうよ?   でも、気にしない。  番犬じゃないし、生粋のワンコじゃないからいいんだ。  彰の匂いの残るベッドにもぐりこむ。  そうすれば、まるで彰に抱っこされているみたいに安心できるから。  彰。早く、俺のところへ帰ってこい。  残業なんかしないで、定時で戻ってこい。  お願いだから、一人ぼっちにするなよ。  そう、心の中で呟きながら、俺は再び眠りに落ちていった。

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