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第4話
俺は、耳をピンと立てて、集中した。
間違いない。彰の足音だ。
ソファから飛び降りると、玄関まで走った。
時計を見ると、ちょうど20時。
遅いっ!! 待ちくたびれたぜ。
ワッサ、ワッサと、最大出力のワイパーみたいな勢いで尻尾が揺れる。
気持ちが高揚して、いても立ってもいられない。
アオーンアオーンと喜びの鳴き声が、俺の口から洩れる。
げっ、何これ?
ちょっと、待て! 落ち着け、俺っ!!!
こんなのって、変だ。
あいつが帰ってきて、ものすごく喜んでるみたいじゃん?
ご主人様の帰りに、歓喜するワンコ、そのものの行動じゃん?
……確かに、嬉しいし、ワンコなんだけどさ。
俺は、体中の理性を呼び戻して、深呼吸した。
落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け……
呪文のように、唱える。
何度も、深呼吸を繰り返すうちに、ようやく興奮が収まってきた。
ドカリと玄関の真ん中に寝転んで体を丸める。
たまたま、玄関で寝ていただけ。お前のお出迎えなんてしないからっ。
ガチリと開錠の音に、収まりかけた喜びがぶり返すが、必死に目を閉じて寝たふりをする。
「こんなところで寝てるの? ……ぷっ……狸寝入り?」
片眼を開けて盗み見ると、必死に笑いをこらえている彰の顔。
その目線の先には、ブンブンと激しく揺れる尻尾。
失敗した! ダダ漏れじゃんっ!
こらっ! 静まれ、尻尾っ!
「桜? 散歩に行こうか? リード買ってきたんだ」
彰が手にしていたのは、肩に通すタイプのリード。
ちょっと、ホッとする。
なんとなく、首輪は抵抗があったから。
彰の横に並んで、歩く。
なんだかんだ言って、散歩は楽しい。
クンクンとあちこち匂いを嗅いで、色々な情報を集める。
ふむふむ、ここは、メジャーなワンコの散歩コースみたい。
すごい数のワンコの匂いがする。
今日から、俺の縄張りだぜっ!
電柱に、匂いをつけようとして、踏みとどまった。
「あれ? 桜、オシッコしないの?」
不思議そうに首をかしげる彰を思いっきり睨み付ける。
……出来ない。
出来るはずがない。
だって、そうだろう?
こいつの目の前で、片足をあげてオシッコをするなんて、出来るはずがないっ!!
どんな羞恥プレイだよ?
結局、家に帰ってからトイレで用を足した。
レバーをひいて、ちゃんと流す。
テレビで、見たことのある人間のトイレで用を足すワンコやニャンコ。
あれって、お仲間に違いない。あいつらも、苦労していたんだ。
トイレから出てくると、待ち構えたように抱き上げられた。
「桜、風呂に入ろう? 今日は、新しいシャンプー買ってきたんだ! 桜専用のヤツ」
彰が取り出したのは、俺のお気に入りのシャンプー。もちろん、人間用の。
懐かしい香りが漂う。
俺、この匂いが好きで、わざわざ、遠くまで買いに行ってたんだ。
それにしても、ワンコって、毎日、風呂に入るの?
風呂好きだから、いいけどさ。
昨日のこともあるし、警戒して股間を尻尾でガードするも、杞憂に終わり、何事もなく風呂を終えた。
カリスマ美容師のような手つきのドライヤーも完了し、トローンと良い気持ちになって、ベッドに直行する。
彰は、昨日みたいに、俺のもふもふの体に顔をうずめてきた。
今日一日、お疲れさま。少しは、甘えさせてやるよ。
優しい気持ちで、耳を舐めてやる。
彰の吐く息がくすぐったい……あれ? 心なしか、息が荒い??
げっ? 興奮してる?
「あのさ、桜の為にちょっと、勉強したんだ」
顔を起こした彰の目に、妖しい光がともる。
何だろう? とっても嫌な予感がする……
俺を抱きかかえる腕に力がこめられる。
「ここ、亀頭球って言うんだって?」
そういって、股間に手を伸ばし、睾丸の横の部分を刺激してきた。
今日は何もされないと思って、すっかり油断していた。
てか、うわー、何???
突然、快楽の電気信号が体を駆け抜けた。
目がくらむような眩い刺激に、一瞬で勃起する。
なんだ、この感じ??
昨日の刺激なんかと桁違い。
自慰で得られる気持ちよさとも全然違う。
「アン」
甲高い鳴き声が、口から洩れる。
彰の手が、容赦なく俺を追い上げる。
ちょっと、待って!
出るっ! 出てしまうっ!!
今まで感じたことのない凄まじい悦楽に、俺はあっけなく射精してしまっていた。
彰は、ティッシュで精液を拭うと、脱力して呆けている俺の頭を優しく撫でて、「おやすみ」と、それはそれはトロけるような甘い声で囁いた。
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