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第6話

 ぎゅっと、例の場所を掴まれた。  途端に、頭の中が真っ白になって、ヘナヘナと腰が砕ける。 「ここを刺激すると、鞘に納められているペニス本体がせり出してくるんだよ。ほら? 出てきたでしょ? 桜のはピンクで可愛い♪ ここも、ちゃんと綺麗に洗わないとね?」  砂糖菓子にハチミツと練乳をたらし、さらに粉砂糖をふりかけた様な究極の甘ったるい声で囁かれた。  俺よりも俺の体に詳しいこいつは、頼みもしないのに一つ一つ丁寧に解説をしながら手を進めていく。    連日の厳戒態勢にも関わらず、エッチなことをされている。  一瞬の隙をつく、その手腕は、もはや、才能としか言いようがない  その日も俺は、彰のいやらしい手に捕まってしまっていた。  勃起してむき出しになったペニスがシャンプーの泡に包まれる。  そのヌメリの力を借りて、彰の手が根元から先端へと上下に動く。 「ワンコのペニスって、人間と違って全体が敏感なんだ。亀頭って言って、すごく気持ちがいい場所が人間のペニスの先端にあるんだけど、ワンコではそこがペニス全体なんだよ? それにほら、根元にある亀頭球もすごくいいでしょ? ここはワンコの性感帯で、一番感じる場所」  そういって、丸くコブのように膨らんでいる場所を大きな手でぎゅっと握りこんだ。  とんでもない、快感が体を駆け巡る。  勃起しているときに、むき出しのこの場所を刺激されると、気を失いそうになるくらいの信じられないような快楽に包まれる。  「アンッ」  俺は、甲高い鳴き声をあげて、彰の手の中に吐精した。 「桜、かわいいなぁ。 感じやすい体だね? 次は、もうちょっと我慢できるようになろうね?」  聞き捨てならない言葉に、射精の余韻も何のその、一瞬で頭に血がのぼった。    はあ? 何だって?  お前、どさくさにまぎれて、すごい暴言を吐かなかった?  俺が、『早漏』だって、言ったよね? 人が気にしていることを!!  金輪際、お前とはやらねぇー! お前の魔の手から、この体を守り切ってやるっ!  激怒した俺は、彰の顔面にワンコパンチを繰り出した。      ◇ ◆ ◇  それから、数日。  戦闘態勢で警戒する俺の気配を察知したのか、彰は全く手を出してこなくなった。  1週間経ち、2週間経ち、とうとう、1ヶ月。  ツンツンと怒っていたくせに、いざ、何もされなくなると落ち着かない。  あの時、怒り過ぎた?  だから、気にして、エッチなことをしてこないのかよ?  別に、本気で怒ったわけじゃない。  ただ、ちょっと、恥ずかしくて気まずいのを誤魔化しただけ。  彰がどうしてもしたいなら、やってもいいのに。  俺の体、好きにしていいからっ! なんてことまで口走りそうになる。  俺の事、もう、どうでもいいのかよ……。  いつものように、彰の匂いの残るベッドにもぐり込んで帰りを待っていると、玄関のドアが開く音がした。  あれ? 彰の足音、しなかったはずだけど?  ドアの影から廊下を覗くと、見知らぬ人影。  巧妙に臭いをマスキングしていて、はっきり断定できないが、ドッグランで見た男に違いない。    築40年のマンションなんて、それこそ、ピッキングし放題じゃんっ!  彰、ちゃんとピッキング防止用の鍵にしておけよっ!!  あの男なら、目的は金じゃなく俺だ。  慌てて、クローゼットに隠れて、様子をうかがう。  このままここにいれば、見つからないはず。  すると、突然、我慢できない程の不快な音が鳴り響いた。  直接、脳を刺激する攻撃的な音。  なんだ? これ?  そうだった。相手は、プロだ。  俺が隠れて出てこないってことぐらい、当然予想していたはず。  不快な音に脳ミソが締め付けられる。  全身がプルプルと痙攣し、鼻血が流れ落ちた。  ここで、連れていかれたら、もう、二度と彰とは会えない。  嫌だ。絶対嫌だ。離れたくない。  音は、容赦なく鳴り響き、全身を蝕む。  彰、助けてっ!   彰っ! 彰っ!   俺は、のそのそとクローゼットから這い出ると、そのまま意識を失った。      ◇ ◆ ◇ 「美しい。素晴らしい」  男は、俺の全身を撫でまわした。  おぞましくてしかたがない。  部屋の中には、窓は一つもなかった。  出入口は、むき出しの階段だけ。  どうやら、俺がいるのは地下室のようだ。  ソファやローテーブルのほかに、動物病院にある診察台や器具が置いてある。 「これから、私がご主人様だ。そんな反抗的な目で睨んでも無駄だ。ちゃんとしつけて服従させてやる。ほら? この首輪はスパイクチェーンといって、言うことを聞かない悪い犬をしつけるためのものだよ?」  そういって、男が引っ張ると、首に鋭い痛みが走った。  キャーンと悲鳴のような鳴き声が口から洩れる。  こんな奴の言いなりなんて、なりたくないのに……。  体をひっくり返され、服従のポーズをとらされる。  男は満足そうに目を細めると、股の間に手をやり、そこを扱き始めた。  彰とは全然違う、虫唾が走る行為。  嫌悪感が強すぎたのか、あんなにも感じやすかったはずの俺のモノは全くそそり立つ気配はなかった。 「発情誘発剤が必要か……」  男は舌打ちをして、戸棚から座薬を取り出した。 「多めに精液を採取したいし、強力なヤツを使ってやる」  卑猥な微笑みを浮かべると、後ろの窄まりにその座薬を挿入した。  一緒に、指も入ってくる。  やめろっ! 変なものを入れるな!    気持ちでは抵抗しているのに、体は動かず、されるがまま。  首にはめられたスパイクチェーンが気力を奪い取る。  薬が奥に進むのを促進するためか、男が入り口を執拗に揉み込んだ。  その動きが、次第に不自然なものに変化した。  入り口付近を刺激する動きに、ピクンと体が反応する。  亀頭球のときとは違う。でも、同じように下腹部にズンとくる刺激。 「なんて、顔をしやがる。その表情、誘っているのか? 犬に欲情したことなんてなかったけど、お前は特別だ。ほら、ここも誘うようにヒクついている。どれ、俺のモノで確かめてやろうか?」  男が2本目の指を入れ、さっきの場所を刺激する。  薬の効き目が出てきたのか、その刺激のせいかはわからないけど、俺のペニスはすっかり勃起していた。  男は、3本目の指を差し入れた。 「犬にも前立腺があるからな。ほら、気持ちいいだろ? 随分、ほぐれてきた。もう、俺のモノをいれても大丈夫だ」  男は、ガチャガチャとベルトを外し、自分のペニスを取り出した。  変態! 俺に触るなっ!   彰っ! 助けて!!  その時だった、争う気配がして、地下室に人がなだれ込んできた。 「詐欺、窃盗、動物愛護法違反の現行犯で逮捕する」  男は手錠をかけられ、連れていかれた。  何が何だかわからないうちに、現場検証が進められる。  不安に震えていると、ふわりと暖かい体温に包まれた。 「桜。もう大丈夫だよ。心配しなくていい。大丈夫」  彰だった。彰が抱きしめてくれている。助けに来てくれたのだ。  ドク、ドクと一定間隔で伝わってくる鼓動が心地よい。  思いっきり、息を吸い込む。  彰の匂いだ。世界一大好きな匂い。  あまりにも幸せで、胸がいっぱいになる。  鼻の奥がツーンとして、視界がぼやける。  そうか、幸せ過ぎると、逆に泣きたくなるのかもしれない。  彰は、ずっと、尻尾を巻き込み小さく丸まって震えている俺を抱きしめてくれていた。    犬を譲れとまとわりつき、ストーカーじみた行為を繰り返す男に、彰は危険を感じ、警戒していたらしい。  男の自宅を調べ上げ、警察にも保護を要請していた。  そういった下地があったから、すぐに警察が動いてくれて、踏み込むことが出来た。  マンションに戻ると、ベッドに連れていかれた。 「おやすみ」  優しく、頭を撫でられる。  このまま、眠りたい。  でも……薬で無理矢理発情させられたペニスは勃起したまま。  ツラい。彰に、何とかしてもらいたい。  そんなことが言えるはずもなく、股間を尻尾で隠し、モジモジする。  ピンクの肉球が張り付いた自分の手では、処理することが出来ない。  もどかしい。どこかに、擦りつけるしかないのだろうか? 「桜?」  彰が顔を覗き込んできた。 「ひょっとして、して欲しいの?」  思わず、目を逸らす。  尻尾がパタパタと布団を叩く。  これでもかってほど目尻を下げた彰は、ペニスに手を伸ばし、事もあろうに口に含んだ。    ちょっ!? 何をしだすんだよっ!  慌てて抵抗する俺の体を力で抑え込み、口淫を続けた。  敏感な場所は、薬によってさらに敏感になり、彰の舌が動く度に、ビクンビクンと全身を電気が走る。  それは、すぐに切羽詰まったものになった。  離せっ! 出るっ!  死に物狂いで身をよじったおかげで、間一髪、彰の口に吐き出すのは防げた。    よかった。何とか耐えた。    ほっとして脱力している俺に、彰はすごく爽やかな微笑みを浮かべながら、 「別に、口の中に出しても良かったのに。『さくら』のものなら、昔も今も平気だよ」  と、触れるような口付けを落とした。

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