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第7話

「桜、我慢しないで出しちゃいなよ?」  俺のペニスを口に含みながら、彰がニヤリとする。    絶対に、出すもんかっ!   これは、戦いだ! 男の勝負だっ!  彰は俺の反応を確かめながら、ねっとりとペニスの表面を舌でねぶり始めた。  敏感な所を集中的に攻められ、ビクンと体が跳ね上がる。  負けるもんかっ!  手足をつっぱらせて、必死にこらえる。  彰は、それをフッと吐息で笑うと、不意打ちのように4つある乳首の2つをつねりあげた。 「アンッ」  俺は堪らず、吐精してしまった。 「桜は、ますます感じやすい体になっちゃったね? 乳首でもいけそう?」  彰は子供のように目をキラキラさせて無邪気に微笑んだ。  くやしい。  また、一方的にいかされてしまった。    ほぼ、毎日、彰にエッチなことをされている。  ペニスや亀頭球、最近では乳首まで、手や口で攻められる。  一体、どこで修行したのかと、小一時間、問い詰めたいほどのテクニック。  俺の体はすっかり快楽を覚えこまされ、篭絡されていた。    そんな俺に、悩みが1つ。  題して「奉仕問題」。  彰は、毎回、一方的に俺をいかせるだけで自分はいかない。  俺に奉仕するだけ。  こちらも、何かしらのお返しをした方がいいんじゃないか?  そこまでは、望んでない? そもそも、普通はワンコに対して欲情しない。   でも、このまま俺だけ奉仕してもらうのは……てな感じで、悶々としている。  お返しするとして、俺にできるのって何だ?  この肉球じゃ、手コキは無理……。  ……やっぱり、フェラ?  鏡に向かって舌を出して、ベロベロ動かしてみる。  人よりは、繊細な動きかもしれない。  気持ち良ければ、ワンコでも問題ないに違いない。  よし、今夜、決行だっ!      ◇ ◆ ◇ 「さ~く~らたん!」  彰が甘えた声でにじり寄ってきた。  俺は、ゴクリと唾を飲み込んだ。いよいよだ。  彰が手を伸ばすより早く、短パンに鼻先を突っ込んだ。 「うわっ! さ、桜???」  目を見開き、声がひっくり返っている。  初めて見る表情に、不覚にも胸がキュンと締め付けられる。  今夜は、俺の舌技にメロメロになれっ!  亀頭のくびれに舌を這わした、まさにその時。  ピーンポン  間の悪いチャイムの音。  息をのみ、見つめ合う俺と彰。  ピーンポン、ピーンポン  さらに、チャイムは続く。 「彰さん? 電気ついているし、いるんでしょ?」  ガチャガチャ、ドアを揺する音。  彰は、舌打ちをすると、玄関に向かった。 「何?」 「突撃ですっ! 中に入れて下さい」 「無理。用事なら、明日、会社で」 「奥に彼女いるんでしょ? 最近、行動が不審だし、彼女が出来たってわかってますよ? 照れることないでしょ? 失礼します!」 「誰もいないって! お前、帰れよっ! あっ、ちょっ、待てっ!」  ずかずかと部屋に入ってきたのは、俺も知っている人物……バスケ部後輩の太一だった。  いかにも新入社員ですって感じの濃紺のスーツ姿。  1学年下の太一は、社会人1年目。会話から察するに、彰と同じ会社に就職したようだ。 「あれ? 誰もいない??」 「だから、誰もいないって言ってるだろっ! 帰れよっ」  太一は、俺を見つけて黄色い声をあげた。 「わ! 犬を飼い始めたんですか? すげー、可愛い!」 「あ、うん。もう、いいだろ? 帰れよ!」 「ひょっとして、今から彼女が来るんですか? そわそわして、怪しいなー」 「違うって!」 「じゃあ、いいじゃないですか! 今日は、渡すものがあって持ってきたんですよ」 「会社で渡せばいいだろ? フロア、一緒なんだから」 「冷たいなぁ。高校の卒業式の写真が出てきたので、持ってきたんですよ」 「えっ?」  高校の卒業式の写真?  見たい、見たい! 俺も見たい!   思わず、太一の膝の上に飛び乗る。  彰は、太一の動きを封じるように封筒を奪い取ると、中身も見ずにそのまま机の引き出しにいれてしまった。  なんだよ、ちゃんとみろよっ!  彰の高校生姿を見たかったのに。  しかも、俺も写っているはずじゃんっ!  「わざわざ、ありがとうなっ! 駅まで送るよ」  彰は、太一の膝の上から俺を抱き上げると、玄関まで促した。  一緒に駅まで送って行くつもりだったのに、「お前はお留守番」と先制される。  太一は、名残惜しそうに俺の頭を撫でると帰って行った。    太一と、もっと一緒にいたかったのにっ!  俺だけ、仲間はずれにしてっ!!  彰は、ワンコの正体が俺だってことは、もちろん知らない。  悪気がないことは、わかっている。  わかっているけど、だからと言って気持ちが収まるわけじゃない。  イライラした俺は、勝手に写真を見てやろうと、引き出しを開けた。   「キャン!」  勢い余って、引き出しの中身が、すべてばらけた。    げげ、どうするよ、これ……。  途方に暮れていると、1冊の古ぼけた大学ノートが目に入った。  最初のページは、5年前の日付。 『1月1日 佐倉と初詣。おみくじ、俺は大吉、佐倉は大凶』 『1月15日 センター試験。ヤマ大当たり』 『2月14日 バレンタイン、俺はチョコ7個、佐倉は23個 三好は0個 賭けに負けた』 『2月26日 入試。手ごたえあり』 『2月28日 久しぶりに練習参加。新チーム良い感じ』  日付もとびとびで、思いついたときに一言だけ書きこんでいる。日記というより、備忘録のようだ。  そうだ、あの時、おみくじが大凶で、彰が自分のものと交換してくれたんだ。  バレンタインは、三好がチョコをもらえるか賭けたんだっけ?  一瞬で、5年前に意識が戻る。  二度と、戻ることのできない懐かしい日々。  あの当たり前に過ごしていた尊い日々に目がくらむ。あの頃は、それがずっと続くと思っていた。  次のページをめくると、そこには何も書いていなかった。  その次のページも。  パラパラをめくっていると、しばらく空白ページが続いた後、  突然、書き殴ったような乱れた文字で一面埋め尽くされていた。 『佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉 佐倉』  震える手で、ページをめくる。 『俺が、あんなことさえ言わなければ、佐倉は死ななかった。俺が殺した』 『俺は自分を一生、許さない』  なんだよ、それ?  お前のせいなんかじゃないっ!  勝手に、責任を感じるなよっ! バカっ!!  胸が熱くなり、次から次へ、涙が溢れてくる。  おまえ、この5年間、どんな思いで過ごしてきたんだ?  俺の事なんて、すっかり忘れていると思ってた。  正直、寂しかった。  それは、すごい自分勝手な考えだった。  生きていくためには、忘れなきゃいけないことがある。  彰? 俺の事なんて、さっさと忘れろよ。  お前は、新しい恋をして、胸を張って生きていかなきゃダメだ。    なんで、俺、今更、戻ってきちゃったんだろう?  ノートは、続いていた。 『桜の花びらを頭につけた犬と出会う。佐倉も初対面の時、同じ場所につけていた。間が抜けている所がそっくりだ。この犬を桜と名付ける』  似てるって、そこかよっ! 『桜は、感情がダダ漏れなのに、自分では気付いていない。かわいい。まるで、佐倉と一緒にいるような気がする』  お前、気付いていたのかよっ! 『桜は、佐倉? 願望がみせる錯覚? 桜が佐倉であろうがなかろうが関係ない。桜が好きだ』  やっぱり、お前、本当に俺のことが大好きだな。  ワンコになっても俺に惚れるなんて……。 『桜と1つになりたい。繋がりたい。桜にはちゃんとした雌犬の繁殖相手を見つけるべきなのに、自分の気持ちが止められない』  お前、ワンコの俺でも欲情してくれるんだ。  ……ワンコな俺でも受け入れてくれるんだ。    俺だって、お前と繋がりたい。  他の誰でもない、彰とセックスしたい。  感情が堰をきったように漏れ出し、自分でも何が何だかわからなくなる。  好きだ、好きだ。  彰のことが、大好きだ。     俺は、部屋を飛び出すと、彰のもとへ向かった。

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