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【最終話】第8話

「ワンッ!!」  道路の向こうに姿を見つけ、大声で呼びかける。  俺の鳴き声に、彰が気付いて手を振った。 「あれ、このワンコ、可愛い。首輪していないし、飼ってあげよう!」  突然、知らない腕に抱き上げられる。  やめろっ! 連れて行くなっ!!  必死の抵抗もむなしく、ガッチリ抑え込まれて、逃げることが出来ない。  そのまま、車に引きずり込まれる。 「桜っ!!」  彰が、顔色を変えて、道路の向こうから駆け寄った。  そこに、大型トラック。  危ないっ!!!!  夢中で、拘束する腕に牙をたて、走り寄った。  彰を助けるために。 「さくらっ!! うあぁぁーーーー」  俺が最後に聞いたのは、彰の絶叫だった。      ◇ ◆ ◇ 「あんたさ、何回死ぬ気?? いーかげんにせんと、しばくぞっ!」  すごい、ガラの悪い関西弁に起こされる。  目の前には、透き通るような白い肌の美少女……って、このパターン……。 「えっ? また、5年後???」  驚きで、跳ね起きる。  5年後って、次は何歳だ? 「違うわっ! ドアホ!! 直後やっ!」 「あ、そうなんだ。今度は本当に死ぬの? 生き返りはナシ?」 「次の体は、もふもふなニャンコ」 「そうか、ニャンコか。ありがとうございます。よろしくお願いします。じゃあ、早速……」 「えっ? 嫌がらへんの? さっきまでのワンコじゃなくて、ニャンコでいいの?」  そりゃ、折角なら、思いが通じた『桜』の体の方がいいに決まっている。  でも…… 「ニャンコでも構わない。どんな姿で転生しても、彰は絶対に俺に惚れるから」  普通は、動物と恋には落ちない。  不安がないわけじゃない。  だけど、彰は、絶対に俺に惚れてくれるって信じてる。  だって、俺が、こんなにも彰のことを愛しているんだから。 「ほな、合格っ!」 「はい??」 「現代版、人魚姫合格!」 「に、にんぎょひめっ???」  人魚姫って、人魚が王子に恋をして、声と引き換えに足を手に入れる話だよね?  俺が、彰に恋をして、声(って、この場合言葉?)と引き換えに足(うーん、この場合はワンコの体?)を手に入れる…ってこと?? 「……いくらなんでも、無理があり過ぎるような気が……」 「なんで? 今までの自分の姿の代わりにターゲットのそばに寄り添うことのできる姿を与えられ、無事にたらしこめたら成功。たらしこめなかったら不成功で消える。一緒やん? どー考えても、そのまんまやん?」  そうなのか??  そもそも、人魚姫は王子に恋心を抱いて、自分に振り向かせるために魔女にお願いする。  別に、俺は彰に恋心を抱いてなかったし、自分に振り向かせたかった訳でもない。  ……違う。  本当は、俺だってずっと彰のことが好きだった。  でも、男との恋愛にトラウマレベルの拒否感情を持っていたせいで、素直に認められなくて。  あの告白の時、彰が自分への恋心を手放したことがわかった。  焦った俺は、もう一度、自分に振り向かせようと彰の家に向かった。  事故の瞬間、後悔して…ものすごく後悔して、どんなものと引き換えてもいいから、彰の心を手に入れたいって、神様に願ったんだ。 「お願いします。彰のそばに、戻してください」 「蛇でもトカゲでも、文句は言いなや?」      ◇ ◆ ◇  あおーげば、とーうーとしー  どこかで、歌が聞こえる。  この歌、なんだっけ?  あ、そうだ、卒業式の定番曲だ。  あれ?  俺は、周りを見渡した。  卒業式の真っ最中。そして、俺は紺のブレザー。高校の制服だ。  どうなってるの?  そのまま人の流れに乗り、体育館を出る。 「真咲さん!彰さん! 写真とりましょう!」  太一がカメラを手に走り寄ってくる。  そう言えば、5年前もこうやって太一に写真を撮ってもらった。  そうか、太一が持ってきた写真は、この写真だったんだ。  横を見ると、高校生の彰が立っていた。  5年後と違って、どこか幼い。背も、微妙に低い気がする。  5年前の流れだと、この後、体育館裏に連れて行かれて、告白される。 「真咲さんも、彰さんも、もっと、笑って!! はい、こっち見て? いくよ? はい、チーズ」  太一が、カメラを構える。  俺は、彰の袖を引っ張って引き寄せると、その唇にキスをした。 「キャー」  あちらこちらから、悲鳴が上がるが気にしない。 「好きだ。ずっと、彰のことが好きだった」  5年前の彰のセリフを、今度は俺から告げる。  5年後の大人の色香が漂うエロいテクニシャンな彰も、  高校生のちょっとだけ幼い彰も、  全部大好き。  彰が、彰である限り、ワンコでもニャンコでも、きっと惚れる。 「俺も……好きだ。ずっと、お前のことが好きだった」  彰も、5年前のセリフを繰り返す。  俺たちは、今度は、口腔を犯すような濃厚なキスをして………周りを呆れさせた。

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