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44,触れたかったところ ※
(あ……!)
羽田さんが砂浜にごろんと横たわり、俺は彼の胸板の上に倒れ込んだ。厚みのある胸板の、張りと温もりを頬に感じる。
ドクドクと鳴っている心臓の音が、波音にかき消されずに耳に届いた。
聞こえてくる熱い胸の鼓動に、自分のそれがシンクロする。
「それにしても、すっげー星空……」
仰向けに寝た羽田さんは、今さらそんなことをつぶやいている。肌と肌を合わせ、直接伝わってくる声の振動が心地よかった。
うっとりしながら、息のリズムで上下する胸板に唇を当てる。
「いいんですか? あなたに触れても」
「そう言っただろ」
濡れた髪を優しく梳くようにして撫でられた。
(本当にいいんだ)
そのまま俺は上になり、彼の肌に触れていく。
形のよい鎖骨とそのくぼみ、発達した大胸筋……今まで見とれていたところ、触ってみたかったところをひとつひとつ確かめた。
手で触れ、唇でも触れる。それから唇をずらしていくと、胸の先端に差しかかった辺りで彼の腹筋が大きく揺れた。
「ここ」
ちゅっと吸って反応を見る。
「嫌? 気持ちいい? どっちですか」
「もっとして」
甘い声で返され、心が躍る。体の潮を舐め取るつもりで、俺は丁寧に舌を這 わせていった。
羽田さんは胸だけでなく、腕の内側や脇腹なんかも敏感みたいだ。彼の体から反応のある場所を見つけるたび、俺は砂を払いのけ、唇を押し当てて、そこから甘い声を導きだそうとした。
される羽田さんは息を乱しながら、俺の頭皮や首の後ろを刺激する。その手の動きは彼の快感と連動しているみたいにみえる。
彼の指が頭皮を引っ掻くたび、俺は褒められているみたいで嬉しくなった。
と、その指に耳の後ろを引っ掻かれ、ぞくりとしたものが腰まで伝わっていく。
「……ここ、いいのか」
体を硬直させた俺に、羽田さんが聞いてきた。
「え……」
反射的に手で耳を押さえる。
「交替しよ」
羽田さんの片脚が俺の胴体にかかり、その大胆な絡み合いに驚いている間に砂の上を転がされた。
「わっ!」
星空を背景に、ギラギラした目に見下ろされる。彼は俺の両手首を砂に押しつけると、無防備な耳を甘噛 みしてきた。
「あんっ!」
耳の裏側に歯が当たる。噛み切られてしまうんじゃないか。そんな恐れとは裏腹に、耳の中を濡らされる感覚が心地いい。
好きな人にすべてを委ねている、そう思うとたまらなかった。
「一月は頭皮がいいんじゃないかと思ってたけど、耳か」
羽田さんがつぶやき、刺激を強めた。
俺はつま先で砂を掻く。
「あっ……はっ……!」
「そんな感じやすいと、もっといろいろしたくなる」
耳の後ろを舌と歯を使って刺激しながら、羽田さんは俺の下半身に手を伸ばした。濡れたパンツの上から、大きな手に内腿 を撫でられる。
「……ひっ!」
思わずひざに力が入って、俺は組み敷かれた状態のまま両ひざを持ち上げた。すると太腿の裏側に、羽田さんの片腕がもぐってくる。
「これ、いつまでも穿 いてんのつらいだろ」
もう片方の腕が、パンツのボタンを外してファスナーを下ろした。
「わ、ま、ちょっ!」
また体がぐるんと回転して、背後に回った羽田さんから下着ごと全部下ろされる。
「へへへ、一月のこんな格好、誰にも見せられないよなあ!」
彼は楽しそうに笑って、俺を完全に裸にしてしまった。生暖かい夜風が無防備な内腿を撫でていった。
「待って、ちょっと!」
体を反転させて尻を庇うと、逆に前から股間を触られる。
「ここも元気だな」
脚の間で勃ち上がっているそれを、断りもなくつかまれた。そして身構える余裕もないまま、先端をぱくりと口に含まれる。
「うそっ、わっ!」
熱い舌が蠢 きながら絡みつく。思わず上半身をのけ反らせると、トンと胸を押されてまた砂の上に倒された。逃げ腰の俺を逃がすまいと、羽田さんが胴の上に跨 がってくる。
「はい、一月はこっち」
「えっ……」
「しゃぶりたかったんだろ?」
「……っ!」
彼は俺の上半身に跨がったまま、挑発するように腰を揺らした。
(……っ、この人は!)
ギリギリのところで俺を押さえ込んでいた、羞恥心の鎖が弾け飛んだ。
(あーもう、今の俺は俺じゃないから!)
上になっている羽田さんの体をはね除けて、俺の方がマウントポジションを取る。
「あっ、こら、一月!?」
そして砂だらけになった腕で彼の腰を押さえ込み、へその下でそそり立っている立派なものにしゃぶりついた。
「うわっ、は!」
俺の下で、羽田さんが悲鳴をあげた。いい気味だ。
「手荒だなあ、オイ……」
ぼやきつつも彼は、また俺の局部に手を伸ばす。
「ん、だめ!」
砂のついた指でくぼみを撫でられただけで、せっかく咥 えたものから唇が離れてしまった。
「あ、は、」
息を継ぎながら、下にいる羽田さんを見る。
「もうお終いか? もうちょっと頑張れ!」
笑って応援された。下になっていても彼は強気だ。そこはもう経験値の違いなんだろうけれど、悔しいは悔しい。
俺は少しムキになって、自分のものより大きなそれをしっかりと口に含んだ。
下半身に施される直接的な刺激に耐えながら、俺は唇で彼の形を確かめていく。そこにドクドクと血潮が流れ込んでくるのを感じた。
(すごいな……)
根元を押さえ込んでいる手が震えた。
始めは純粋な海の味を味わっていたが、そのうち先端から溢れ出てくる先走りの味を感じる。どんどん溢れてくるそれを、俺は夢中になって舐め取った。
「んんっ……一月……そろそろ」
気がつくと羽田さんが、苦しそうな顔をしていた。彼の口元を、俺から溢れたものがけがしている。
「そろそろお前も限界だろ」
しばらく息をするのも忘れていて、頭の中がふわふわしていた。けれど下半身は痛いくらいに張り詰めている。
羽田さんがまた俺の腰に脚をかけ、勢いよく体を反転させて体勢を入れ替えた。
この人の腰回りの筋肉は異常にきれいだと思っていたけれど、こういうことをするために鍛えているんじゃないかと疑ってしまう。
「大丈夫か?」
ぼーっとしていると、苦笑いで顔を覗き込まれた。
「……っ、大丈夫じゃない、です……もう、苦し……」
下から突き上げるような仕草で、己の昂ぶりを主張する。
「ん……」
彼は俺の上半身を抱き寄せ、頭のてっぺんにキスを落とした。
「分かった、お兄さんに任せなさい」
「任せるって……」
「俺ん中入る?」
耳元でささやかれた言葉に、心臓がドクンと脈打つ。羽田さんは硬直している俺に甘い笑みを見せ、唇を合わせてきた。
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