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46,カウントダウン ※

「お前っ、後悔すんなよ?」  腰を後ろからつかまれ、下半身に彼の体重が乗る。そこに生々しい体温を感じた途端、さっきまでの興奮が戻ってきた。 「後悔なんか! 俺が、してほしいって言ってるんです!」 「はは、オーケー」  熱い昂ぶりをこすりつけられる。 「ああ……」  口に咥えた時の硬さと大きさを思い出し、のどがゴクリと鳴った。  入れられるのは怖いけれど、存在感のある先端をそこにこすりつけられるのは気持ちいい。 「あぁっ……!」  背筋が小刻みに震え、生理的な涙が出てきた。 「羽田さん、早く……あんまりじらさないで……」 「焦ると痛いぞ」  たしなめるように背中を撫でられ、背骨の脇にキスをされた。  それから羽田さんが、ゆっくりと己を進めてくる。 「あっ、ああ……あああっ!」  押し開かれる痛みに、背筋がしなった。  彼は一旦動きを止め、また俺の背中にキスをする。 「一月……」  耳の後ろから呼びかける声が、甘く切なく胸を締めつけた。 「優しくしないで、いいですから……」 「なんだよそれ?」 「俺なんかで気持ちよくなれるなら、早くそうして!」  振り向くと目が合い、照れくさそうな顔で微笑まれた。 「馬鹿、そういうんじゃねーし」 「だったらこれ、どういうのなんですか」  その微笑みの意味が分からない。  見つめていると、片手で下腹部をくるくると撫でられた。 「分かるか? お前の中に俺がいる」  撫でられたところがじわっと熱くなる。 「お前が、俺を受け入れてくれてる。その幸福を、俺は今、堪能してんだよ」 「ああっ……」  腰の周りがゾクゾクして、砂の上に突いているひざが震えだした。 「なんですかこれっ」 「あ、もしかしてもう感じてる?」  羽田さんが小さく笑った。 「ううっ、あなたがっ、余計なことを言うから!」 「お前、頭の中だけで感じられるタイプなのか! 才能ありすぎんだろ」  羽田さんが中で動き始めて、内側が泡立つようにこすれた。 「やあんっ、ああっ!」 「いいとここすってやろうと思ってたのに、その前にお前がイっちゃいそう」 「だったら動かないでください!」  抗議しても、俺を責める腰の動きは止まらない。 「俺に気持ちよくなってほしいって言わなかった?」 「だからっ、俺がよすぎて駄目なんです!」 「ズルいな、自分だけ気持ちいいのか」  さっきまで優しかったくせに、今度は力任せにねじ込まれた。 「!!」  押し開き、貫かれる衝撃がつま先まで伝わっていく。 「やっ、はあっ、待って!」 「ああ、一月、その声可愛すぎ!」 「意地悪ですね! 俺をいたぷって楽しんでるんですか?」 「悪い、そういうつもりはないんだが、あんま優しくしてやる余裕ない!」 「……?」  振り向いて見ると、腰を振っている羽田さんも切羽詰まったような顔をしていた。 (この人を、追い詰めてるのは俺なのか!)  自分も追い詰められているくせに、そう思うと嬉しくて仕方ない。 「ああもう、好きにしてください!」  俺は自分から腰を持ち上げ、奥まで受け入れようとした。  ちょうどいい角度で押し込まれ、中が深くえぐられる。 「ふあっ……そこ、きもちい……っ」 「ああ、お前のいいとこ当たってる」  ぐずぐずに溶かされた中に、羽田さんは的確な刺激をぶつけてきた。 「ふあっ、そこ、ああっ、んっ、だめです、もうむり!」 「今好きにしろって言ったばっかりだろー」  羽田さんは笑うけれど、こんな状況で筋の通ったことなんか言えない。頭の中も、体の中と同じくらいぐちゃぐちゃだ。 「だって! ああっ、もう!」  さっき彼の中に吐き出したばかりなのに、いつの間にかまた前が張り詰めていた。  羽田さんが容赦なくいいところに当ててくる。 「だったら……素直にイっちゃいなさい」 「……やだっ、俺ばっかイキたくない!」  本当はすぐにでも吐き出してしまいたいのに、男のプライドが邪魔をした。 「お前は……ほんっとに可愛いな!」  言いながらも羽田さんは、腰を休めようとしない。 「じゃあ、10数えて一緒にイこうか」 「……っ、何!?」 「10、9……」  カウントダウンに合わせ、彼は大きく腰をグラインドさせる。 「えっ、ええっ!? そんな高度なっ!」  本当に出し入れ10回でイクつもりなのか。 「8、7……」 「あっ、ああっ!」  頭の中に白い火花が飛び散った。それと同時に前から白濁が噴き出す。 「あっ、あああ……」 「6、5……」  星明かりに照らされた白い砂浜に、俺の噴き上げた飛沫が黒々としたしみを作った。 「4、3……5秒と持たなかったな」 「あ、は、ふっ……」  まだ砂の上に残滓(ざんし)を吐き出す。 「2、1……おしまい」  羽田さんはようやくカウントダウンを終え、俺の中にドクドクと熱いものを送り込んだ。 「んーっ!」 「お疲れ、一月」  とてつもない快感と開放感。そして敗北感。そんなものを抱え、俺は砂の上に倒れ込む。  全身汗だくで、もう指一本動かす気力もない。  そんな俺の隣に寝そべり頬杖(ほおづえ)を突いて、羽田さんは甘く弾んだ声でささやいた。 「俺、お前のこと、ほんっ……と好きだわ」 「……おれも、すきです」  腹に力が入らずに、声が掠れた。そんな自分の情けなさに笑える。 「何笑ってるんだ」 「だって」  羽田さんも笑っていた。 (これって、幸せなのかな……?)  ふとそんな思いが胸にもたげる。  星空の下、南海の小島で生まれたままの姿の男が2人、SOSの文字のそばに寝そべっている。遭難していて明日の行方も分からないブラックコメディみたいな状況なのに、心はどこまでも清々しかった。 「そうだ一月、これ」  気だるげな声に振り向く。すると羽田さんが、真ユーマニオンの深紅の指輪を差し出していた。 「お前に返さなきゃと思ってた」  飛び込みシーンの前に、俺が羽田さんに預けたやつだ。 「ありがとう……」  受け取ろうとすると手首をつかまれ、左手の薬指に指輪を通される。 「え……この指? 意味深ですね……っていうかどこからこれ……」  この島まで泳ぐために服はほとんど脱ぎ捨ててしまって、しまっておく場所もなかったはずだ。 「え、どこからだろうな? さっき脱いだパンツの中とか?」  羽田さんは馬鹿みたいな、それでいて魅力的なニヤけ顔で笑っている。  まあいいか、この人は俺のヒーロー。この人さえいてくれればきっと万事オーケーだ。  俺は星明かりを映す指輪の輝きに目を細める。  そして見る鮮やかな朝焼けは、水平線のすぐ向こう側に迫っていた――。 【エピローグへ続く】

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