17 / 33

第17話

 その夜は、円い月が出ていた。  江頭に犯された帰り、ふと立ち止まり吉乃は月を眺めた。  赤い月だ。  どこか禍々しい光を放っている。 「赤い血を片目に差して、赤い月を見なさい……か」  今は亡き曽祖父が、まだ幼い吉乃に繰り返し聞かせていた言葉だ。 『本当に困った時は、赤い血を片目に差して、赤い月をその眼で見なさい』 『ひいじいちゃん、そしたらどうなるの?』 『吉乃を助けてくれる者が、やってくるよ』  無意識のうちに、吉乃はリュックからペンケースを取り出した。  ペンケースから、カッターナイフを手に取った。

ともだちにシェアしよう!