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 少し癖毛の男が目を開けると、そこには見知らぬ景色があった。誰かに丁寧に扱われていたのか、ふかふかのベッドに横になっていることに気付く。  しかし、彼は服を着ていなかった。  あまりにも心地いい温度に、気付くまでにしばらく時間が掛かっていた。 「目が覚めた?」  男の右側から、落ち着いた低い声がした。彼はそこへ視線をやる。  柔らかな笑みを浮かべる、長髪を雑に束ねた男が彼のことを座りながら見下ろしている。どうやら、目覚める前もずっとそこにいたようだ。 「なっ……!?」 「大丈夫大丈夫、何もしてないよ。……あ、濡れてた服を脱がせはしたかな」 「な、んで、俺を……」  見知らぬ怪しい人物にどうしてここまでするのか。男に浮かび上がる疑問は目の前の恩人に対する不安を含んでいる。  だが、彼のそんな様子に気付いているにもかかわらず、長髪の男は変わらず笑みを浮かべ続けている。 「んー、興味が湧いたから? 出掛けたらたまたま君がいてね。本当にそれだけだよ。君を殺すつもりなんてないし、ここに好きなだけいていいよ」 「っ……」  ニコニコとした表情から物騒な言葉が出てきた途端、男の瞳にそれまでなかった殺意が宿る。まるで野生の獣のように長髪の男をじっと捉え、今すぐにでも息の根を止めようとしている。  そんな状況でも彼から笑みは消えず、むしろ声を出して笑っていた。

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