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「あはは。そう睨まないで。俺は見ての通り、戦えなさそうなひょろひょろだよ。君に掛かればあっという間に死ぬと思うよ。ここには本当に物騒なものなんてない、見たままが俺のありのままの状態。安心して」
「安心しろって……」
気の抜けた言葉に、男からすっかり殺意は消えていた。しかしまだ不満が残っていた。
どうやら、無条件で何かをしてもらうことが引っ掛かっているようだ。
「今の君に対価を求めるつもりはないよ。そうだねぇ、そしたらまず服をどうにかしようか」
長髪の男は椅子から立ち上がり、部屋の端にあるクローゼットへと移動する。中にはいくつかの服が入っているが、どれも少しくたびれている印象がある。彼には合わないと思ったら捨てるように床へ落とす。
そうして服の小さな山が出来上がってきたところで、ようやく合いそうな服を取り出した。白いシャツは、皺だらけである。
そんな様子に男は呆れながら部屋を見渡す。
書類のような紙の束が散らかった机。あちこちに本が山積みになっている部屋。ところどころに置かれた皺だらけの服。
散らかっているの一言で片付けるには足りない惨状に、思わず溜め息が漏れていた。
「ん、どうしたの?」
「別に……」
「はい。俺の服だけどよかったら使って」
皺だらけのシャツとズボンを手渡すと、男の方を向きながら椅子に座った。
こちらを見るな、と言いたげな表情を浮かべながら着替えを始める。彼が見立てた通り、ちょうどいいサイズであった。
若干みすぼらしいがきちんと服を纏った格好になると、ようやくベッドから下りる。彼はまるで、街で歩いていそうな普通の青年のようである。
「うん、似合ってる」
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