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「……あんたさ、部屋は汚いし服も皺だらけだし。もう少し綺麗にするとか片付けるとかしないの?」
「え、どこが汚いって? この本たちも仕事で使うんだけどなぁ」
「だったら、家事はやってんのか? 掃除、洗濯はとてもやってるように思えないし、料理もどうだか」
「うーん、最後にやったのはいつだったかなー?」
はぁ、とわざとらしく大きな溜め息をつく。確実に綺麗と呼べる状態でない部屋に、よく人を入れたと完全に呆れていた。
すると、何かを思い付いたようで、長髪の男をじっと見ながら口を開く。
「だったら俺が全部やってやる。掃除、洗濯、料理、家事全部が俺の対価だ!」
怒りの混じったような勢いに、目を丸くして固まっていた。とてもこんな勢いを秘めていたとは思えなかったようだ。
しばらくすると、長髪の男は腹を抱えながら大声で笑い出した。
「あはは、まさかそんなこと言われるなんて。面白い、それで受けるよ」
彼は立ち上がり、笑顔を崩さないまま男をじっと見つめる。
互いの目線が同じ高さでぶつかる。
「俺は史智 、よろしく」
「……英治 だ」
どちらからとも言わずに差し出された手がそっと握られ、約束として交わされる。
まるで正反対の二人の、一つ屋根の下での生活がこうして始まる。
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