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若の惚れた男1

若にもいつか好きな奴が出来て、俺に守られてるだけじゃなく。自分で自分の大事なもん守っていく日が来ることは覚悟していた……つもりだった。 けれど。いざその時が来ると、俺の心はざわついて落ち着かない。 一週間経った今でも、あの時の真剣な若の顔が忘れられない。 いつも俺だけを見て、俺だけに甘えていた若が、誰かに惚れた。 俺が知らない間に。俺の知らない誰かを。 「北条さん。北条さ~ん。そのへんで止めないと、その人死んじまいますよぉ~」 「あ?」 西國の声にふと我に返ると、俺の右手はいつのまにか血だらけになっていて、床には顔が潰れた男達が気絶していた。 「あ?誰だっけコイツ等」 「た、たふけっ……」 涙を流しながら必死に命乞いをする汚い野郎の顔に嫌悪感を覚えて、ようやく思い出した。 確かコイツは、俺達のシマで勝手に薬を売りさばいていやがって、俺は今日コイツをシメに来たんだった。 「無意識にずっと殴ってたのか。俺」 「え、なにそれ。ちょーこえぇっす」 「あ?」 「いえ。なんでもありません」 最近どうも胸がムカムカして気持ちわりぃ。殴っても殴っても全然スッキリしねぇし。 原因は分かってるんだけどな。 「あれでしょ?どうせまた若の事で悩んでるんでしょ?北条さんいつも若の事になると、無意識に暴れ出しますもんね」 俺の事なら何でも分かっている様な顔で言われるのは腹が立つが、実際図星な為。言い返すことも出来ない。無茶苦茶不服だ。 そして、その相談相手もコイツしかいない。なんて不毛だ。 「はぁ~~……。どうせお前にはバレちまうし。また相談乗ってくれるか?」 「勿論いいですよぉ~。んで?可愛い可愛い若が、今回はどんな我が儘を言っておられるんですかい?」 床にばら撒かれた薬の袋を回収しながら、いつものように俺の悩みを気軽に聞いてくる西國に、俺はなんて言ったらいいのか。そもそも若の個人情報をバラしてしまってもいいものなのかと迷いながらも、苦々しい口ぶりで答えてしまう。 「その……だな……。どうやら、若に……好きな奴が、出来た……らしい」 「ブフッーー!!」 一体さっきのどこがそんなに可笑しかったのか、俺の一言に西國は盛大に噴き出して、盛大に笑いながら、その場をごろごろと転がりまわっている。 普段からコイツの行動や言動にはいつもイライラさせられるが、今回はものすごく殴り飛ばしたい。わりと本気で。 「オイ。そのふざけた笑いを止めねぇと……今すぐ殴る」 「あ、はい。すいません」 切り替えの早さは嫌いじゃない。 「んで?なにがそんなに面白かったんだ?テメェは」 「あぁ~~……いや。ただ、若もとうとう我慢できなくなってきたんだろうなぁ~~と」 「は?どういう意味だ?」 「あぁ~~いえいえ。気にしないでください。それよりも、そんな事で悩んでる北条さんが一番笑えますし」 「はぁ!?いや、悩むだろ!!当たり前だろ!!」 「えぇ~~いや、なんで北条さんが悩むんですか。今まさに恋に悩んでるのは若本人でしょうに……」 「そ、そりゃ……そうかもしれねぇが」 自分でも、それは分かってはいるつもりだ。 今まさに恋に悩んでいるのは若の方なのだから、俺はその手伝いをするのがお世話係として取るべき行動なのだ。 それなのに。今の俺は、若に好きな奴がいると知ってからどうも落ち着かない。 不安と言うか……イライラするというか……もやもやするというか。 きっとこんな気持ちじゃあ、若の恋の悩みなんて聞けるわけがない。

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