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若の惚れた男2

「あれだな。きっとこれが、所謂娘に彼氏が出来たお父さんの気持ちなんだろうな」 「いや、若男ですけど」 「同じだろ。特に若はそのへんの女より可愛いからな。男にもモテるくらいだし」 「まぁ……それは否定できませんけど」 「もしかすると。若の好きな奴が男だという可能性もある」 「……ほう」 「だとしたら、その男が俺よりも真面目でしっかりした人間で、俺よりも強い男か見極める必要があるな」 「……そう、ですかぁ」 「そして、若をイヤラシイ目で見ていないか。下心だけで近づいていないか。そこも見極める必要がある」 「えぇ!?いやいや。下心なんて、男なら誰だってあるものでしょう?」 「駄目だ。あんなに純粋で天使の様な若を、汚い手で汚させるわけにはいかん」 「どこの頑固おやじですか。溺愛ぷりもそこまで来るとウザがられますよ」 「うぐっ」 西國の言葉が、胸に突き刺さる。 ウザがられる……。 今現在、それが原因で俺は若から嫌われているかもしれない。 「どうしたんですか北条さん?急に静かになっちゃって……もしかしてようやく自覚したんですか?」 「……なぁ西國。やはり俺は、若に溺愛しすぎていると思うか?それが原因で俺は、若から嫌われてしまったんだろうか……」 「はい?なんでそう思うんです?」 「最近俺を見る目が変……というか。まるで辛そうで、悲しそうというか。俺がウザいだけならいいんだが。もしかすると、若にはもう俺を必要としてねぇんじゃねぇかと思ってよ」 本当はそれでいいはずなんだ。 若に嫌われようと、必要とされなくとも、俺は若を守るだけ。それが俺の仕事……のはずなのに。結局気にしてしまっている。 「顔に似合わず小心者ですね。北条さん」 「若に対してだけだ!!」 「知ってます。毎回相談受けてるの俺なんで」 俺の相談内容にだんだん面倒になってきたのか。西國は、慣れた手つきで床に転がっている奴等の懐をごそごそを探っては、銃や金を回収していく。 さっさとこの場から立ち去るために、俺も回収を手伝い。とりあえずこの血生臭い場所から退散することにした。 「あ~あ。こりゃ帰ったらまず風呂ですねぇ~」 「チッ。そうだな」 俺が助手席に座った後。運転席に西國が乗り込み。シートベルトを付けて車を発進させる。 風呂という言葉に、ふと西國の服の方へ目を向けると、いつものだらしない白いスーツには返り血はほとんど付いていない。 ということは、先に風呂に入らなければいけないのは俺の方か。 「こりゃ、また若に叱られちまうな」 「叱られる?なんでですか?汚いからですか?」 「いいや。危ない事はするなって」 「……はぁ~~……」 「あ?なんだよ」 「いえ。そこまで言われても気付かない北条さんって、ホント鈍感だなぁ~と思っただけです」 「まぁ……それは否定できんな」 「否定できないんだ!?」 だいたい俺は昔から、人間関係とか周囲の変化とかに気付かないタイプだ。 だからいつも若や組長を怒らせちまうし。いつのまにか知らない間に敵を作ってしまっている。そのせいで組にも何度か迷惑をかけちまったこともあった。 きっと俺は、生きるのが下手くそなんだ。 鈍感で、無神経で、いい加減で、空気も読めない。 だから誰からも必要とされてこなかった。 だからあの時も、俺は大事なものを守れなかった。 何もかもを失って、汚れて、どうしようもなかったこんな俺を、拾ってくれた組長に恩を返したい。 そして、そんな俺をずっと側に置いてくれた若に尽くしたい。 「やっぱ。うだうだと悩んでんのは、俺らしくねぇな」 「あれ?なんか勝手に解決しようとしてません?」 「西國。すまなかったな」 「え。何ですか急に気持ち悪い」 「俺は若に嫌われてでも、若の恋を応援する事にした。もしも若の惚れた奴が俺よりも弱い野郎だったとしても、俺が心も身体も強くしてやればいい話だしな」 「あはは~。それ、相手死にません?」 「いや、死なねぇよ」 「というか、それなら北条さん。もう若の側にいられなくなりますよ?」 「いいんだよ。若が良いならそれで」 「若の顔も、いつもより拝めなくなりますよ?」 「いいんだって。若の写真は山ほど持ってるからな。まだ小さくて産まれたばかりの天使のような若から、美しく凛としたブレザー姿の天使のような若までの写真を……」 「いや、なんで若が産まれた時の写真持ってんですか!?というかその写真絶対隠し撮りっすよね?一緒に撮ってるとこなんて見たこと無いですし!!」 「若には言うなよ?」 「いや、寧ろ言えませんわ……。あ、着きましたよ」 「おぅ」 悩み相談をしている間に、車は東田組へと到着していた。 既にシートベルトを外していた西國は、疲れ切ったように背伸びをして、大きな溜息を吐く。 「じゃあ北条さん。とりあえずもう大丈夫って事でいいんですよね?若の恋を応援するってことで」 「あぁ勿論だ。俺は若が幸せならそれで……」 「じゃあ『アレ』を見ても、冷静でいてくださいね?」 「アレ?」 西國が指さす向こうに居たのは、女神の様な微笑みを浮かべる若と、見たこと無い茶髪の男。 若と同じ制服ということは、同じ学校の生徒なんだろうが……あんなイケメン、俺は知らない。 若に近づきそうな奴や、無駄に顔が良い奴は既にチャック済みのはずなのに。

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