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若の惚れた男3
「あの子スポーツでもやってんですかね~?随分髪短いし、肌も小麦色に焼けちゃってますし。あ、顔はイケメンの方じゃないですかぁ?睫毛長いし、小顔だし。身長も北条さんと変わんないくらいで、なんとかいうか……爽やか系イケメン?」
ボロボロと出てくるのは男の優れた点ばかり。しかしそれは全部外見のみの判断だ。大事なのは中身。外面だけの野郎に若の心が今まで動いたことは一度たりとも無い。
「な~んか若。楽しそっすね」
「なに!!??」
「ほら、超良い顔で笑ってますよ?あの若が」
確かに。最初に見た時の若の女神の様な微笑みは、ただの社交辞令じゃなかったということか。
「じゃあまさか……あの男が」
その瞬間『好きな人が出来た』と言っていた若の言葉が、俺の脳裏を駆け巡る。
「若の……好きな奴。なのか?」
「北条さん?」
目の前の光景から目が離せない俺は、いつしか焦りと不安に駆りたたられ。居ても立っても居られなくなってしまったのか。気付けば車から飛び出していた。
「若!!」
「……秋虎」
俺は、若と茶髪の男の前に出て道を塞いだ。
「秋虎。どういうつもり?」
「こ、れは……」
俺は一体何をやっているのだろうか。もしこの男が、本当に若の惚れた野郎だったとしたら、応援するどころか。寧ろ俺は邪魔者だ。
それなのに、これ以上この男に笑顔を向けてほしくないと。そんな嫉妬みたいな気持ちが、二人の邪魔をしようとしてしまう。
「春華。この人知り合い?」
「はっ、はる、か……だと」
まさかの相手は、若を名前呼び。
「秋虎。この人は、昨日僕のクラスに転校してきた南雲涼夏君」
「どうも!南雲涼夏 です!春華君にはいつも優しくしてもらっています!」
「や、優しく……って」
ナニを優しくしてもらってるんだ。
まさか、もうそんな関係にまで……。
「というか秋虎。そんな恰好で出て来ないでくれる?涼夏が怖がるじゃん」
わ、若までコイツを名前呼びしてる。
「あぁ大丈夫大丈夫!春華が極道の息子ってのは聞いてたしさ!それよりも秋虎さん?の方が心配ですよ。怪我してるんじゃないんですか?」
まさかの、俺の心配をしてくるだと。
見かけどころか、中身まで普通に良い奴。これじゃあ若の側から離れさせる口実が見つけられない。このままでは……。
「ごめんね涼夏。大丈夫、多分アレ全部返り血だろうから。ていうか秋虎も、いつまでそこに居るつもり?僕達、これから遊びに行くんだけど」
俺の態度にイライラし始めてきた若の声色に、棘が見え出す。
どうして俺には、あの男に向けていた優しい声で喋ってくれないのだろうか。どうして俺には、あの時の楽しそうな笑顔を見せてくれなのだろうか。
俺は、こんなにも若が大事なのに。
「若。もしかしてコイツが……そうなんですか」
「なにが?」
「だから、あの。あの時言っていた」
濁すように問いかける俺の言葉に、若は一瞬驚いたように目を見開いていたが。その後ニヤリと意地悪な笑みを浮かべた。
「そういうことね。そうだね……秋虎の想像に任せるよ」
ハッキリと答えてくれないのはワザとだろう。
どうやら若は、俺をもっと困らせたいらしい。こっちはこんなにも気が気でないのに。
「行こうか。涼夏」
「え、う、うん……」
俯いたまま黙っている俺の横を、すり抜けて過ぎていく二人。
俺を無視して遠くなっていく若の背中を見つめながら、俺は思ってしまった。
振り返ってほしいと。俺を見てほしいと。
「北条さん」
「なぁ西國。父親って、娘が結婚した時。こんなにも不安になるものなのか?こんなに辛いものなのか?」
「それは……俺にも分からないっすよ。父親になったことなんてありませんしねぇ」
「そうか」
「ただ、俺から言えることは一つあります。そのよく分からない気持ちを俺に言うんじゃなくて、若本人に言ってください。じゃないと、きっと後悔しますよ」
俺の肩を軽く叩いた西國は、どこか今の俺と似たような顔をしていた。
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