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若の告白3

「秋虎。もう少し」 「わ……か」 若は、俺の口の端からはみっともなく垂れていた唾液を舌で舐めとり。そのままもう一度深いキスをする。 聞こえてくるのは、恥ずかしくなるような唾液の交わる水音と。どっちのものかも分からない大きな心音。 キスくらい、今まで女と何度かしてきた。いつもリードだって出来ていた。 慣れていないなんて事はないはずなのに……どうして若とのキスは、こんなにも苦しくて、いっぱいいっぱいになってしまうんだ。 「ぅ、はっぁ」 マズい。このまま若のペースに飲まれてしまったら、自分が保てなくなってしまう。 それに、下半身の方もそろそろ限界だ。流石にこんな醜い醜態を若に晒すわけには……。 「ふっ。そんなに必死にしがみついちゃって……可愛いね秋虎」 そう言われて俺は、若の服を両手でしっかり握りしめていた事に気が付いた。 「す、すみません!!俺のせいで、若の服に皺がっ」 「いいよ。寧ろもっとしがみついてよ」 俺の耳元で甘く囁く若の表情は、どこか嬉しそうだ。 久々に向けられた若の微笑み。 可愛いのは勿論だが、胸が締め付けられるみたいにキュッとする。ずっとグチャグチャしていた気持ちが、涙になって溢れ出てしまいそうだ。 「秋虎……可愛い」 若はおもむろに俺のシャツをめくりあげ、ついばむように腹から胸へ唇を落としていく。 「ちょっ!?わっーーぐ、うっ!」 ちょっとだけ肌を強く吸われた瞬間。ビリッとした刺激に身体が震えた。 気持ち良い。 肌を触られただけで、舐められただけで、自分がこんなに感じるなんて思いもしなかった。 「ぁっ、はっ」 もっと触れてほしい。 もっと奥まで、もっと先まで、若の手で俺を気持ちよくさせてほしい。 「わっ……かぁ……」 「あ、ここ……凄い傷」 そこは昔、ヘマして銃で撃たれてしまった傷跡だった。 それだけじゃない。俺の身体には、生々しい傷跡がいくつもある。いや。それどころか、俺の身体は若みたいに綺麗じゃなければ、女みたいに柔らかい部分なんて一つもない。 若よりデカくて、ゴツくて、醜い身体だ。 こんな俺を、天使のように美しい若が触れていいはずがない。 俺と最後までヤッて、後悔されるのも嫌だし。それに若には、お似合いの相手がもういるんだ。 ここで止めなくてはーー。 「若。もうここまでにしましょう。若も、俺と最後までヤル気はないでしょう?」 「いいや?全然ヤル気満々だよ」 そう言って前髪を掻き上げる若の仕草に、思わずまた胸がキュッとしてしまう。 若って、こんなに男らしい一面もあったのか。 「っ……じゃ、じゃあ。若は嫌でしょうけど……一緒に触るだけ……とかなら、いいですか?」 「ヤダ。触るだけとか無理。秋虎を抱きたい」 「だッ!?わ、若!?俺を抱く気ですか!?」 「言っておくけど、僕秋虎なら全然余裕で抱けるから。寧ろ秋虎の身体見て興奮してるし」 「え、えっと。あ、有難うございます?」 「ってなわけで、大人しく抱かれてよ」 「い、いや!!ちょっと待ってください!!」 「なに?秋虎だってもう我慢できないでしょ?ここだって、こんなに大きくなってるし」 「そ、それは……」 けど、若には惚れた奴がいる。俺じゃない、南雲とかいう男に。 ならーー。 「やっぱり駄目です。だって若には、既に惚れた奴がいるでしょう?なら、初めてはソイツにとっておいた方がいいです。好きでもない俺なんかを抱いたら、きっと後悔しか残りませんよ?」 自分で言ってて虚しくなってくる。 だってそれは、自分が若にとってただの性欲処理だったという事実を受け入れてしまう事になるのだから。 「……なにそれ」 「若?」 「この僕が、好きでもない奴を抱くわけないじゃん。まだわかんないの?」 若の涙が俺の頬にポツリと落ちて、ゆっくりと伝い流れていく。 「わ、か……」 俺の上で、悔しそうに歯を食いしばる若の顔に目が逸らせなかった。 「僕はね、ずっと前から秋虎のことが……好きだったんだよ」 そう言って離れていく若を、俺は引き止めることが出来ず。静かになった部屋でただ一人。俺は自分の愚かさに涙を流しながら、何度も何度もベットを殴りつけていた。

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