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南雲組1
最近、夢を見る。
胸糞悪い、昔の夢。
俺がもっと人の心を分かってやれる人間だったら、きっとあんなことは起きなかった。
こんな俺が、誰かを、若を好きになっても良いのだろうか?
きっとまた、守れなくて失うだけなんじゃないのか?
それが怖い。
大事な奴を、また失うのが怖い。
それなら俺は、ただの盾でいい。組長や若を守る。ただの盾。
失うのは、自分の命だけでいい。
だから、俺なんかを好きにならなくていいんです。若。
俺が、若を想っていられるのなら……それだけで。
「北条さ~~ん。着きましたよぉ~~」
「んっ、あぁ」
西國の声に、ゆっくりと瞼を開く。
どうやらいつの間にか、車の中で眠ってしまったらしい。
「北条さん、最近車の中でよくうたた寝しちゃってますよね?眠れてないんですか?」
「……まぁな」
「あぁ~~もしかして若の事。まだ解決してない感じですか?」
「……まぁな。というか寧ろ、悩みが増えた感じだ」
「えぇ~~!!折角俺が忠告してやったっていうのに~~。相変わらず不器用ですねぇ~~北条さんは」
「うるせぇ!!」
好きな奴が出来たと言っていたはずの若からの告白。
どうして若は、俺に「好き」だなんて言ってきたのだろうか?
若は、あの南雲とかいう男の事が好きだったんじゃなかったのか?
全部俺の勘違い?
ただ俺が、若の想いにずっと気が付かなっただけなのか?
「あぁクソッ!!もう訳が分からん!!」
「まぁまぁ。大好きな若に告られたんですから、もっと喜んどきましょう?」
「いや。なんで知ってんだお前」
「ぷっ!!あはは!!やっぱりそうだったんですねぇー」
「テメェ……西國のくせに俺をハメやがったな」
「ちょっ、あたたっ!!頭潰そうとしないで、メキメキって、いたたっ!!」
コイツはホント勘だけは良い。いつも俺の事を見抜いてきやがる。
いや……俺だけじゃない。元々西國は、洞察力と言うか、人間観察力に長けていた。
もしも俺じゃなくて、若の好きな相手が西國だったら、きっとこんな事にはならなかっただろうな。
「なぁ西國。俺は、テメェが羨ましいよ」
「え、なんですか突然。気持ち悪いです」
「うるせぇ。潰すぞ」
「はい。すみません」
悩んだり怒ったりしすぎて疲れきた俺は、そのまま座席を倒して寝転がる。
もしも、若のお世話係が俺じゃなくて西國だったら。
もしも、若の好きな人が俺じゃなくて西國だったら。
もしも、アイツの親友が俺じゃなくて西國だったら。
瞼を閉じたまま考える事は、今更有り得ない話ばかり。どうしようもない「もしも」の話ばかり。
「なぁ西國」
「はい?なんですか?」
「俺が、親友を見殺しにしたことがあるって言ったら……テメェはどう思う」
「……はい?」
何故今頃になって、こんな昔の話を西國に話そうと思ったのかは分からない。
ただ「もしも」なんてくだらない事を考えていたら、昔。俺が背負ってしまった罪を、誰かに聞いてほしいと。誰かにも知っていてほしいと思ってしまった。
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