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南雲組2
「ソイツは昔からの仲でな。俺が極道に入ってもずっと変わらず接してくれた唯一の親友だったんだが……ソイツ、別の組に多額の借金をしてたらしんだ。俺はその事にずっと気が付かなかった」
「そう、だったんですね」
「俺が気付いた時には、既に手遅れでな……ははっ。勘のいいお前ならもう大体分かるだろ?その後の結末が」
「……もしかして。自殺……したんですか?」
「あぁそうだ。もう止めることも出来なかった」
この世界にいたら、人の死を見るのは珍しくもない。実際、もう慣れてしまっているとこもある。
けれど。親友が部屋で首を吊っていたあの日の光景だけは、今でも忘れられない。
悪夢のように、何度も何度も頭の中で再生される。
大事なものを失うというのはこんなにも苦しいものなんだと、俺はあの時初めて知った。
「俺がもっと早く気が付いていれば、アイツは死なずにすんだんだ。俺がアイツを殺しちまったようなもんだ」
「そんな……それって、北条さんのせいじゃ」
「いや俺のせいだ。俺が気が付いてやれなかったせいなんだ。だから俺は……お前が羨ましんだよ西國。俺にもお前みたいなその勘の鋭さがあれば、きっと親友の自殺も止められただろうし。若の想いにもすぐに気づけたはずなんだ」
寝そべっていた身体を起こして、いつのまにか俺は弱音ばかりを吐き散らした。
西國が羨ましい。西國のようになりたいと。
いつもだったら、そんな俺に西國は適当な返事を返してくる。決して共感したりはしない。ただ悩みを聞いて、最後は俺の背中を軽く押してくれる。それくらいが、俺には丁度よかった。
けれど。
俺の話を聞いていた西國の顔はいつもと違って、どこか悲しげで辛そうな表情をしていた。
「勘が鋭いのは、決して良い事ばかりじゃないっすけどね……」
「……西國?」
いつもおチャラけている西國の声のトーンが、珍しく落ちている。
さっきの俺の言葉に、どこか気に食わないところでもあったのだろうか?それとも、知らず知らず傷つけるようなことを口走っていたのだろうか?
「(俺は、いつも隣にいる西國の事さえ分からないのか……)」
近くにいる奴の気持ちさえも分からない俺が、若を好きになる資格はない。
それに、また俺のせいで大事な人を失ったりしたら、きっと今度は立ち直れないだろう。
それなら、好きな人なんて作らない方がマシだ。
「悪かったな。西國」
「いや!あの、北条さん!今のは気にしないでくださいね?大体俺が何も言わないのが悪いんですから。勝手に落ち込んでるだけなんで、マジで」
俺を必死にフォローする西國に、俺は適当に相槌をうちながら窓の外を眺めた。
俺はきっと、なにも変われない。
若が一人前の男になるまで後少し。お世話係が終われば、こんな悩みともおさらば出来る。
それまで俺は、いつも通りの仕事をしよう。若の為にも……俺の為にも。
「……北条さん」
「なんだ」
「あそこ見てください」
「あ?」
西國が眼で指す方へ顔を向けると、明らかにガラの悪い数人の男達が、誰かを囲んで歩いている姿が目に入った。
「アイツ等は……」
男達は、そのまま路地裏へと入り込んでいく。
服装や顔つきからして、ただの不良ではない。
俺の予想が当たってれば、多分アイツ等が組長が言っていた、東田組を狙っていやがる他の組共だろう。
その証拠に、俺の血が身体の中でゾクゾクと騒いでいやがる。こういう野性の勘だけは働いて助かるぜ。
「西國止めろ」
「はい」
路肩に車を止めてもらい。俺は車内から降りた。
「俺は今からゴミ共を掃除してくる。後処理は頼むぞ」
「せめて一人くらいは意識ある状態にしといてくださいよぉ?」
「覚えてたらな」
西國は車で待機さえ、俺は一人路地裏へと入り込んだ。
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